森林公園には木々が綺麗な緑を纏っている。
森林公園に拘る事はない。
ここから見える街路樹も。
家に植わる木だって。
本格的な春。
彼と付き合い始めてもうじき2ヶ月。
持て余してるストローでグラスの中の氷が音を立ててくるくる回る。
止めれば、それは徐々にゆっくりゆっくり。
それは同じ大学に進み同じ時間を過ごしてる和やかな時間と同じ――。
まだ何もかもが新鮮で。
何もかも初めてのことばかりで。
まだまだ知らないことばかりで。
だから、なのかな。
今のわたしは――。
「ねえ、葉月とは最近どう? 意外にもアノ時って葉月タフそうだよね〜」
「ぶ――――――っ!!」
いとも簡単に淡い、くすぐったいこの気持ちが崩れ去る。
高校時代からの御用達の喫茶店にて。
なっちんと談話していたわたし。
アイスティーを一口口に含んだ丁度その時なっちんからのそんな発言。
「な、な、何を急に!?」
吹き出してしまったアイスティーがなっちんにかからなかったことにほっとし、自分の口元をナプキンで拭いた。
「だってさー、アンタ達付き合ってもう1ヶ月半すぎたじゃん?
そりゃ毎日でも逢えば……」
「……そんなにしてな…………あ」
「え……? そうなの?」
わたしはあまりにも恥ずかしくて。
膨れて。
「いいの! わたし達はそんなコトで付き合ってるんじゃないもん!」
「ばっかだねぇ〜、葉月だって健康な青年だよ? そりゃ今ヤリたくてヤリたくてしょーがない時期じゃん?」
「………………」
珪くんとの夜。
それは今までに一度だけ。
今でも覚えてる。
甘い声も。
優しい手も。
わたしはとっても恥ずかしくて。
どうにも逃げ出したくて。
でもその思いと真逆に。
もっと珪くんと近づきたくて。
それなのに。
あまりの激痛にそれを口にしたら。
『ごめん……』
一言。
珪くんは困ったようにわたしに謝り。
それ以後は。
珪くん、優しいから普通に接してくれる。
笑ってくれる。
ただ夜を共にする事はなく。
それに関しては話もしてない。
呆れたよね?
幻滅したよね?
だってわたし、何の経験もなくて。
あれ以来ああいう事がないって事は。
もうないんだろうな。
それでも。
珪くんはわたしにとって生まれて初めて本当に好きになった人。
嫌われたくない。
離れたくない。
だからわたしから別れを切り出すなんて、ないと思ってた。
言うのなら、珪くんの方からだと思ってた。
本当はそんな時が来ない方が絶対にいい。
だけど。
だけどね、珪くん。
これ以上近づかなくていいのかもしれないんだ。
今、わたしね――。
「ははは、ウソだよ。 むくれないの! ほれ! 奢ったる!
機嫌直しなよ〜」
「……ホントだね? なっちんの奢りだね? よし、機嫌直った!!」
正直。
救われていた。
他愛もない話で。
こんな時間が続けばいいと。
楽しくて忘れられるから。
せめて友達の前だけでは、笑っていようと。
たぶんなっちんもタマちゃんも瑞希さんも志穂ちゃんもこんな自分を怒るかもしれない。
それでもわたし。
こうするしかなかったんだ。
ずっと彼にもみんなにも誤魔化せると思ってたんだ……。
「signal ―prologue 離れたくない」 |
20091226 |