新しい年。

起きてカーテンをあけると今日も朝日が眩しくて、今年一年を象徴してくれるかのよう。

これだけ天気がいいと新たな気持ちになって心が入れ替えられるようで。

 

「ん〜」

 

ひとつ伸びをして、着替えようかとクローゼットを開けようとすると。

尽が。

 

「姉ちゃんっ」

 

ガチャといきなりわたしの部屋のドアを開ける。

 

「あんたねぇ……何度言ったら分かるの! ノックしなさいって言ってるでしょ!!」

「いいじゃん、かわいい弟なんだからさ、オレは」

「……年が変わっても相変わらず生意気な弟なんだから」

「ほらよ。 姉ちゃんの」

 

尽はわたしに年賀状の束をくれた。

結構多いかなあ。

誰から来たかな〜と年賀状を見ようとすると、尽が頭の後ろで手を組んでじっとわたしを見ていた。

 

「何よ」

「いや、姉ちゃん、学校じゃ結構うまくいってるんだな」

「どういう意味?」

「ちゃんと年賀状たくさん来るし、それに男もね」

「あんた見たのっ?」

「そりゃあさ、姉を思う弟してはさ。 なーんて、見てないよ」

 

じろっと睨むと、おー怖い怖いと尽は部屋から出て行った。

 

「まったくもう!」

 

ベッドに座り年賀状を見てみる。

中学校の時の友達や、勿論今の学校の友達まで来ていた。

 

「みんな、凝ってるなぁ……志穂さんやっぱり真面目だな……瑞希さん、自分の顔写真入りだー。 なっちん、年賀状が元気だよ。 タマちゃんもカワイイなぁ」

 

いつも一緒にいる友達からの年賀状。

本当に嬉しい。

その中には男の子からも届いていて。

 

「守村くん……三原くん……鈴鹿くん……鈴鹿くん、なんかすごいよ、字が」

 

紙面に大きく書いてある『謹賀新年』に思わず笑いそうになる。

でも次の年賀状を見て項垂れる。

氷室先生から。

 

「先生……なんで新年から小言を……」

 

そして一番最後にあった葉月くんからの年賀状。

 

「葉月くん……出してくれたんだ」

 

裏には青地に羊の絵が描いてある。

シンプルだけどとても素敵でカッコいい年賀状だった。

わたしは葉月くんに出したけれど期待は本当にしてなかった。

年賀状を出すなんて感じは全然しないから。

どんな顔して年賀状書いてくれたんだろう。

どんな思いで年賀状出してくれたんだろう。

意外だった葉月くんの年賀状にわたしはつい微笑んでしまった。

年賀状を大事に机にしまって、今日一日何しようかと考えていた。

初詣……どうしようかな。

なっちんでも誘って行こうかな。

なんて携帯を手に取り、開いて履歴からなっちんの番号を探すと。

いきなり着信音が鳴り出した。

びっくりしてディスプレイを見ると。

葉月くんからだった。

思わず、発信ボタンを押して電話に出る。

ドキドキしてる自分を悟られないように。

 

「もしもし?」

『……俺、葉月』

「あ、葉月くん! おはよう!! あれ? 起きたばっか?」

『……ああ……』

 

声がまだなんか寝ぼけてそうだった。

 

「声、寝起きだよ」

 

その後彼から思ってもみなかった言葉を耳にする。

 

『今から初詣に行かないか?』

 

あまりにも急で、でも嬉しくて。

きっとわたしは動揺してたんだろうか。

二つ返事でOKしてしまった。

 

「え? ホント!? 行く行くっ!!」

 

ここはもう少し迷った方がよかったか……。

すぐに返事なんかしちゃったから、葉月くん、ヘンに思ってないかな?

そんなわたしの気持ちを他所に彼は続ける。

 

『そっちに行くから支度して待ってろ』

「うん、わかった」

 

電話を切って、もう一度携帯の履歴を見る。

ちゃんと葉月くんだよね?

ちゃんと名乗ったもんね?

間違ってないよね?

わたしの携帯の履歴に初めて乗った名前。

嬉しくなっちゃって。

いてもたってもいられなくなっちゃって。

わたしは大声でお母さんを呼んで階下に降りた。

 

 

家のインターホンが鳴る。

 

「ひえぇぇっ! 来ちゃった!!」

 

お母さんに髪の毛のセットと着物を着せてもらい、バッグを持ち出し玄関まで行くと。

すでに尽が玄関のドアを開けていて。

もう! なんであんたがそこにいるのよ!

 

「お? 葉月! 待ってたぜ。 ねえちゃん葉月と初詣行くってもう大はしゃぎでさ、ものすごい洒落ちゃって」

「尽! 余計なこと言わないの!!」

 

まったくもう!

尽はがんばんなよ、と笑って居間に入っていく。

開けたドアの向こうには葉月くんが立っていた。

黒いジャケットにタートルネックのセーターを着て。

 

「おまたせ!」

 

うわぁ……ちょっと恥ずかしいかも……。

わたし一人でこんなの着ちゃって……。

なんか浮かれてるように見えちゃうかな……。

見れば葉月くんはまじまじとわたしの着物を見ていた。

う……照れるからそんなに見ないで欲しい……。

 

「晴れ着……着たのか」

「う、うん。 おかしいかな?」

 

どうしよう……何かおかしいとこはないよね?

わたしは前や後ろをよく確認した。

でも彼は。

 

「ああ……いいと思う」

 

少し笑って答えてくれた。

 

「ホント!? よかったあ!」

 

ああ、ホッとした。

もしイヤだったらどうしようかと思ってたもの。

 

「あ、あけましておめでとう、葉月くん!」

「ああ、おめでとう。 じゃ、行くか」

 

そう言って神社へと向かう。

やっぱり草履って歩きにくいよね?

ちょっといつもより遅いかもしれない、歩くの。

でも葉月くん………………合わせてくれてるの?

そう思うとちょっぴり嬉しくなって、どうでもいいことばかり話してしまう。

冬休み、志穂ちゃんと植物園に行って花の名前を教えてもらったとか、瑞希さんちになっちんを誘って遊びに行ったら二人がケンカしそうになったとか、タマちゃんと弟の玉緒くんと尽の4人でスケートしに行って転びそうになったとか。

とても他愛もない話ばっかりしちゃってた。

ふと、気付くと葉月くんは黙ってわたしの話を聞いてただけだった。

頷いてるだけ。

や、やだっ! わたしったら!!

またひとりで喋っちゃった……。

 

「あ……ごめんね、わたしまたひとりで話しちゃった」

「……別にかまわない」

 

う……気使わせちゃったかな……。

 

「あ、そうだ。 わたしね」

「……?」

 

冬休みの話をしていて思い出した。

 

「葉月くんからクリスマスプレゼント貰ったでしょ? だからお返し」

「え?」

 

わたしは持っていたバックから葉月くんに渡すプレゼントを彼に渡した。

 

「この間わたしが出したプレゼントと同じなんだ。 もしよかったら……」

「バカ……よかったのに……」

「でもわたしばっかり貰っちゃったから……ね?」

「ああ……サンキュ」

 

葉月くんはちゃんと受け取ってくれた。

よかった。

だって、本当にわたし嬉しくて。

でも、やっぱりわたしばっかり貰うのは気がひけて。

 

「……見ていいか?」

「あ、いいよー」

 

自分の前でプレゼント開けられるのってちょっと恥ずかしいけど。

でも、葉月くんの反応が見たかった。

……喜んでくれるかなぁ……。

だって可愛かったし。

仔猫のカレンダー。

葉月くんはほんちょっぴり笑ってくれて。

 

「ありがとうな。 俺、欲しかったんだ」

 

うわぁ、よかったよ〜!!

葉月くん、気に入ってくれたのっ?

 

「本当に? やったー! よかった。 あ、見て! すごい人!」

 

わたしは照れを隠すように、話題を神社に変えた。

本当に人が多くて。

今日中に帰れるかなと思うほどだった。

でも……葉月くん……大丈夫かな?

人込み、あまり好きじゃないんじゃ……。

だってねぇ、とても有名な人だからきっと周りが葉月くんに気付くよね?

ほら、あそこの女の子たちだって葉月くん見つけて何か囁いてる。

ほんのり頬を染めて。

葉月くんはそんなわたしの心配なんかどうでも思ってなくて。

どんどん先に行ってしまった。

わ、葉月くんに置いて行かれちゃうっ。

一生懸命彼に追いつこうと思ってもこの人込みで。

なかなか前には進めない。

ようやく葉月くんはわたしが近くにいないことが分かったらしく。

 

「樋渡?」

 

周りをきょろきょろし始めた。

 

「は、葉月く〜ん!」

 

わたしに気付いてくれた彼は、人の波に逆らってわたしの元に来てくれた。

 

「悪い……」

「ご、ごめんね、わたし晴れ着着てくるんじゃなかった……」

 

うっ……わたし本当にダメね。

こんなところまで葉月くんに迷惑かけちゃって……。

自分であまりにも情けなくて泣きそうになった。

いきなりこつんと優しい力で葉月くんに額を小突かれた。

 

「バカ、いいんだよ」

 

すると葉月くんは着ていたジャケットの裾を上げる。

一緒にセーターの裾も上げたから、ジーンズの後ろのベルト通しが目に入る。

 

「ほら、俺のベルト通しに指ひっかけてろ」

 

え……。

びっくりするわたしに彼は早くしろと言わんばかりに目で急かすので、人差し指をそこにひっかけた。

 

「ごめんね、ありがとう」

 

葉月くんは背が高いからとても目立つ。

だから腰の位置もやっぱり高くて。

でも心地のいい高さで。

改めて見れば葉月くんの背中はとても広かった。

とても綺麗な顔してるのにやっぱり男の子なんだなぁ……。

こんなに間近で見ることなかったから、また葉月くんの事知ったような気がした。

何十分かかけて賽銭箱の前にたどり着いた

葉月くんとわたしは小銭を投げて、お互い手を合わせて目を閉じる。

願い……わたしの願い。

 

 

 

どうかこれからも葉月くんと楽しく過ごせますように。

もっともっと一緒の時間を過ごせますように。

だから葉月くんの事、これ以上いろいろな事知る事ができますように。

 

 

 

とにかく葉月くんの事しか願ってなかった自分がいた。

目を開けて、隣を見ると葉月くんはわたしをじっと見ていた。

な、何で見てるの……?

まさか、わたしの願い事……知ってるんじゃ……。

わたしの事見透かされていたようで、とても恥ずかしくて笑ってごまかしてしまった。

 

 

おみくじもふたりで引いて。

葉月くんの毎回らしい大吉は羨ましかったけど。

人込みを抜けて、わたしたちは帰路についた。

 

「……何願ってたんだ?」

「え?」

 

葉月くんはわたしに聞いてきた。

 

「いや……ものすごく真剣だったから……」

 

とても言えないよ、恥ずかしくて。

葉月くんの事しか思ってなかったんだから……。

だから。

 

「な・い・しょ! おみくじも大吉だったしね、今年はいい事あるかなぁ?」

「ああ、おまえは今年きっといい事ありそうだ」

「何で分かるの?」

「俺、そういう勘は当たるんだ……おまえの願いかなうといいな」

 

葉月くんの勘……ちょっと頼ってみようかな。

 

「うん! 葉月くんもね」

「………………ああ、そうだな……」

 

今年一年、どうなるのかな? わたしたち。

わたしの願い……叶うかな?

 

 

 

 

 

「prayer ―― heroine side」
20040830



全然作るつもりがなかった主人公ちゃんサイド。
でも作ってしまいました……。
あ、初めてですね、相互視点創作。
もうやらないと思う……(笑)
やっぱ王子でやめときゃよかった……自爆。
あ、タマちゃんの弟くんて「玉緒」くんじゃなかったっけか……?ホントうろ覚え……。
しかも自分で調べないときた(笑)










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