日差しの強い、ルカの展望台。
街を見下ろせば、ザナルカンドとまではいかないけど数多の人が行き交っている。
家族や友達や、恋人と。
亜人種が楽器を鳴らし、街頭で大道芸をしてる人や着ぐるみで子供をあやす人。
見ていて飽きないほどいろいろな人がいて、賑やかで活気のある街。
楽しいトコなんだな、ここって。
眼下の広場の時計を見れば、約束の時間までもう少し。
オレは手摺りに両肘を置き。
首を左右に揺らし鼻歌を歌う。
その広場の噴水の近く、三人の女の子がベンチに座り。
キャッキャ、キャッキャと騒いでる。
あ。
あの一番左の娘、カワイイな。
瞳も大きくて。
赤毛の腰までくるくるの髪。
あ、胸も大きい。
細身なのにな。
笑顔もカワイイし。
ああいう娘と付き合ったら。
連れて歩けたら。
自慢できるんだろうな。
誰もが羨むんだろうな。
ただ。
目を閉じてその場面を想像する。
彼女の隣に自分を置いて。
彼女の肩を組んで。
互いに笑い合って――。
………………。
………………。
んあー。
首を傾げてすぐさま目を開ける。
なぁんて。
それはないわ。
ちっともピンと来ない。
なんでだろうな。
ザナルカンドにいた頃は平気で考えられたんだけどな。
付き合うまではいかないにしても、周りに女もたくさんいたし。
美人も多かったし。
16歳でエイブスでデビューして、それからすぐだった。
オレがエースと呼ばれるようになったのは。
ブリッツに夢中になってた時期でもあって。
また有名になって、いろいろ注目もされてきて。
ファンも増えてきて。
だからウワサになるのも面倒で。
当時は“彼女”と呼べる女なんていなかった。
だけど、今は。
「ああ、鼻の下が伸びきってるっすよ」
その声に、振り返る。
「の、伸びてないから!」
「ふふ、あの娘カワイイね」
隣のユウナはオレから少し離れて。
手摺りに肘をついて、オレの視線の先の娘を見て笑う。
オレはユウナを見た。
屈託なく笑うユウナの横顔。
逸らさず、見る。
ここから見える碧の瞳も。
通った鼻筋も。
桜色の唇も。
ユウナがオレの視線に気づき。
首を傾け、不可思議そうな顔。
「な、何でもないッス」
顔を見られたくなくて逸らす。
「ユウナ、どこ行きたいッスか?」
「いいよ、どこでも。 キミの行きたいところで」
「じゃあ、ぶらぶらしよっか」
オレが歩き出す。
その後をユウナが。
「ユウナ、暑くないか?」
「ううん、今日は結ってるから少し涼しいかな」
ユウナの手はオレの手を伸ばしても届かない位置。
こういう時はいつだって、オレの右手も左手も何も掴んでない。
本当は、それが。
いつまでも、横に並んで歩けないそれが。
拳を握る。
「ユウナ」
「ん?」
「やっぱさ……」
オレは振り返り。
後を歩くユウナに向きながら、歩いた。
「オレたち……付き合ってるって、言っちゃわない?」
「え……」
ユウナは瞳を大きくしてオレを見た。
歩みを止める。
「ほら、こうしてさ、ふたりで出かけても……なんかさ」
数秒後。
ユウナは笑った。
「ダメだよ……キミのファンの娘たちが悲しむよ」
「でも……」
「でもじゃないっす。 このままでいいよ」
ユウナがオレの脇を通り過ぎようとした時。
オレはユウナの腕を掴んだ。
「ティ……」
「でもオレ……」
もちろん、ビサイドにいれば。
村の人たちも公認で。
オレたちは離れることはない。
手も繋げるし、抱き締めることもできるし。
キスすることだってできる。
でもやっぱり、こうして出かけてる時も。
オレはユウナと一緒に。
手を繋ぎながら。
隣に並んで歩きたい。
それに。
隠れるように、人の少ないこの展望台での待ち合わせ。
オレたちは“ブリッツの選手”と“大召喚士”以前に。
ただのスピラの人間なんだ。
堂々としていたいんだ。
「ティーダ……!」
ユウナがオレに手を添え。
掴んでた手を剥がす。
「行こう?」
ユウナは小走りで広場へ降りる階段まで。
その笑顔が。
少し胸が痛い。
オレは頭をかいて、ユウナの後に続いた。
スピラの人間はふたりが一緒にいても、オレ達をただの“ブリッツの選手”と“大召喚士”という間柄でしか見てない。
でもさ、ユウナ。
オレ。
ユウナしか考えてない。
どんなにカワイイ娘がいても。
どんなに美人でスタイルも良くて。
どんなに性格のいい娘がいても。
どうにも、気持ちが向かない。
ユウナ以上の娘がいても。
ユウナ以上じゃないんだ。
ユウナを象る全てが。
それは瞳とか、髪とか、手とか、身体とか。
性格とか、生き方とか、名前とか。
象る全てが。
オレの全てで。
それを、オレの想いを。
子供かもしれないけど。
浅はかなのかもしれないけど。
ユウナが正しいのかもしれないけど。
彼女がいて周りが騒ぐこと。
不思議と相手がユウナだと煩わしくない。
寧ろ。
スピラの人間に知ってほしい。
オレたちの仲とか深さとか。
ユウナはオレの数歩先を歩いている。
オレは願ってる。
いつか、いつの日か。
オレの隣を、ユウナが歩くこと。
ユウナの隣に、オレがいること。
手を繋いで。
目を合わせて笑い合って。
いつか。
いつの日か。
絶対、叶えるから。
「cry for you ― scene 1」 |
20110808 |