――約束をした。
ずっと傍にいること。
ずっと離れないこと。
一生涯の、恋人でいること。
酷いよ。
『俺はすぐに帰ってくるさ』
投降した日。
私を抱き締めて言ってくれた。
勇さんはいつだって私を安心させようと笑顔でいてくれた。
部屋を出る前、私に振り返るその時まで。
その微笑が忘れられない。
いつまでもいつまでも……目の裏に焼きついて。
離れない。
ねぇ、勇さん。
あの時の貴方はもう覚悟していたの?
戻れない、覚悟。
あの夜の笑顔も囁きも。
抱擁も。
お別れのつもりでいたの?
最後のつもりでいたの?
勇さん。
酷いよ。
私の気持ち、知ってるくせに。
お別れも、最後も嫌なの知ってるくせに。
ずっと貴方の隣にいるという想い。
取り上げないで下さい。
私達、これからですよね?
今からですよね?
お願いだから。
最後だなんて、言わないで下さい。
……でも。
もし「最期」と言うのならせめて。
ほんの一寸でいいんです。
一緒にいさせて下さい。
貴方を見ながら。
貴方を感じながら。
私は逝きたいんです。
貴方の「最期」は私の「最期」だから。
勇さんは男として、武士として、私達新選組を守るため。
ただ信念を貫いただけ。
もしかしたら、百人が百人勇さんが悪いと言うかもしれない。
けれど。
私だけは……私だけは勇さんの味方。
共に戦うため。
共に羽ばたくため。
傍にずっといたいがため。
私は板橋まで走っていた。
羽ばたけない彼の翼を届けるまでは。
私は死ねない。
私は死なない。
途中むせ返るような吐き気がして、脇道で吐く。
眩暈がするような吐き気。 裂けるようなお腹の激痛。
腿を伝って血が流れてる、気がした。
こんな時に……?
木に手をつき、足元に落ちる尋常じゃない自分の汗を見る。
先月、来るべき月のものがなかった。
遅れてるくらいにしか思わなかった。
いつもとは違う腹痛。
もし……もしも。
万が一。
私の身に何か変化があったのだとしたら。
――もう、ダメなんだろう。
……ちょうどいいかもしれない。
生きて勇さんの家族に迷惑かけてしまうよりは。
ただでさえ苦痛に追い込んでるのに、奥様を今以上に悲しませるよりは。
共に死んでこの事実を消し去る方がいい。
もしもそうなら。
きっと勇さんは怒るんだろう。
でも――ごめんなさい。
私我侭です。
でもどうしても貴方に逢いたいんです。
これを届けたいんです。
分かって下さい。
もうすぐ……もうすぐですから……。
こんな所で立ち止まってる暇はない。
目を閉じて。
勇さんの愛刀をぎゅっと握り締めて。
額の汗を拭い。
再び歯を食い縛って走り出す。
勇さん、とうとう逢えますね。
もっとずっと貴方と生きたかった。
でも……きっとやっぱり。
今度で「最期」ですね。
それでもいいです。
もう一度勇さんに逢えるなら。
虎徹を片手に持ち。
自分の刀の柄を持つ。
私の腰に差された刀は以前勇さんから貰った刀。
それから肌身離さず帯刀している。
私を守るようにと願をかけた刀。
その刀を。
静かに引き抜き。
愛しの人の元へと。
生きるのも一緒。
散るのも一緒。
約束、果たします。
「約束」 |
20051106 |