「永倉君、お茶ぁ」
今日は暖かい陽気で。
縁側で俺と近藤さんが世間話をしていると。
「鈴花さぁーん! 元気にしちゅうか?」
先ほど遠くで聴き慣れた声が響き渡った。
間違いなく梅さん。
どうやら桜庭のヤツを見つけたようで。
時には笑い声が聞こえたりして。
屯所の入り口で二人の会話が盛り上がってるようだった。
それを聞いた途端。
わかりやすいな、この人は……。
徐々に笑顔を失くし。
口を尖らして。
今に至るワケだ。
「ったく、才谷くんは何しに来てるのかねぇ……うあっちーっ!」
俺が淹れた茶を一気に飲み干し。
舌を火傷する。
まぁ……気持ちはわかるけどよ……。
「あ、近藤さん、永倉さん。 ここにいたんですか?」
廊下の向こうからひょっこり桜庭が顔を出す。
「ちょっと梅さんとお出かけしてきま……こ、近藤さん?」
「あ、ああ、こっちはいいからよ、気ィつけて行ってこいや」
「え? あ、はい……夕飯までには帰りますので」
頭を下げて桜庭は行く。
俺は大きな溜息をつき。
すっかりふくれっ面の近藤さんをなだめる。
「いーじゃねェかよ、桜庭は今日非番だぜ」
「知ってるよ、んなこたぁ」
「大丈夫だぜ、梅さんなら」
「才谷君だから危ないんだろ? すぐ手ェ出しそうだし」
かいたあぐらの膝で肘付く。
ま、あの性格だからな。
「あーあ、俺ですらそんなにお茶に誘ってねぇのにな。
桜庭君あんな嬉しそうなカオしてさぁ……」
はぁ、と息を吐く。
どこか遠くを見ながら。
「桜庭君、才谷君のコト好きなのかねぇ……」
「は?」
「だってさ、“梅さん”だなんて馴れ馴れしく呼んじゃってさ……俺と一緒にいる時あんな楽しそうかなぁとかさ……」
「……それは考えす」
「あのまま逢引してそのまま……」
「…………あのよ、近ど」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んんんんあああああ!」
突然奇声を発し、頭をガシガシ掻く近藤さんに俺は持ってた茶を零しそうになる。
「なんだなんだ!?」
「なんか……ものすごく…………」
「あ?」
「……イライラする」
バサバサになった髪もそのままで。
相変わらず……ブーたれてる。
「あんま才谷君と仲良くしてると、俺遊郭行っちまうぜー?
いいのかよ〜、俺モテるんだぜ〜」
「……近藤さんさぁ」
「何?」
「近藤さん……桜庭のコト、好きなんだろ?」
「…………へ?」
目をデカくして俺を見る。
徐々に真っ赤なカオして。
それに俺の方がビックリするだろ。
お、おいおい……無自覚か?
「い……いやいやいやいや! そういうんじゃないさ!
ただ俺は局長としてだな、隊士の知らねぇコトはねぇようにって!」
「………………」
「ま、まったく何言い出すんだよ、永倉君は」
つーか前にさ。
桜庭にも聞いたコトがあったんだ。
その時アイツも。
『ち、違いますっ! 近藤さんは局長ですよっ!?
私はただ近藤さんの力になりたいだけで……』
やっぱり赤いカオして否定してたな。
ホントあんたたちは。
わかりやすいっつーか。
素直じゃねぇっつーか。
「……仮に俺があの娘を好きになったとしてさ、どーよ?
俺には嫁がいて……彼女は10以上も下だぜ? 向こうが嫌がるだろ。 ありえねぇ話さ……」
「………………」
「いいさいいさ……女なんて星の数だけいるんだ…………別にあの娘だけじゃねぇし……」
「………………」
「島原に行きゃ可愛い娘なんてたくさんいるし……その気になりゃ誰だって抱けるし…………別に……あの娘だけじゃ……ねぇし……」
肩を落として大きな溜息をつく。
こりゃもしかして。
……相当、だよな。
知ってたよ。
あんなに通ってた島原。
大好きだった島原。
全然行かなくなったろ。
そんでもって。
溜息の数が多くなってるのも。
でもよ。
やっぱ俺的に。
アイツと想いが一緒ってのが。
ちょっとだけ悔しいから。
アイツの気持ち。
ぜってー言ってやらねェよ。
可愛い意地悪じゃねェ?
俺ってさ。
ま。
お互いがお互いを想ってんならいつかそのうちわかるだろ?
それまで。
大変かもしれねェけど。
あんたら……頑張んな。
「溜息」 |
20060523 |