「んー! このお団子美味しい! 京のも美味しかったけど江戸のお団子も大好きー」

 

途中お団子屋さんの匂いにつられ一串買い、店先で頬張った。

とても甘くて美味しい。

沖田さんのいる療養所までまだまだ長い道のり。

甘い物食べて体力つけなきゃ。

ちょうどお昼時かな?

町の中を沢山の人が行き交う。

京でもこんな風に町の人を眺めながらお団子食べたっけ。

 

 

なんだか……懐かしい。

あの頃は楽しかったな。

純粋に剣を振り。

仲間と共に笑い合い。

 

 

そして。

 

いつからか。

特別な気持ちも知ってしまった。

 

 

 

やっぱり。

お団子食べてると。

……思い出す。

一緒に町まで出て。

一緒にお団子食べて。

 

 

『ほらほら、慌てて食うんじゃないよ』と私の口元のたれを拭ってくれたり。

『今度はぜんざいの美味しいトコへ行こうか』と次の約束したり。

 

 

何も考えなかったんだ。

ただ単に、素直に、純粋に。

憧れて。

好きになったんだ。

 

 

 

 

 

……知ってたのにな。 遊ばれてた事なんて……。

 

 

 

 

 

冷静になって考えてみれば。

近藤さんが私の事本気で好きになるなんて有り得ない。

綺麗な奥様もお嬢様もいらっしゃって。

美人で何人もの太夫さんと関係を持っていて。

こんな。

いつも男装していて。

血生臭い私を好きになるなんて。

あるわけ、ないんだ。

 

「……馬鹿だなぁ、私……」

 

好きになっちゃいけなかったのに。

傷つくだけなのに。

髪も。

瞳も。

泣きぼくろも。

声も。

背丈も。

気質も。

 

なんで。

なんで、好きになっちゃったんだろう。

 

 

『俺は女の子みんな大好きだよ』って。

誰にだって同じ優しさ。

誰にだって同じ微笑。

誰にだって同じ抱擁。

 

知ってたはずなのに。

分かってたはずなのに。

特別なんて事、あるわけないのに。

一人で舞い上がってて、馬鹿みたい。

何を。

何を……期待してたんだろう……。

あの人を想っても。

 

 

 

私と一生結ばれる事はないのに。

確かなものなんて、何もないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダメだよ。

 

考えちゃ。

 

思い出しちゃ。

 

辛くなるだけ。

悲しくなるだけ。

もう、前のようには戻らないんだから。

そうやって自分に言い聞かせないと。

私は。

 

壊れそうになる。

ダメになる。

叫んでしまいそうになる。

 

 

 

そうだ。

沖田さんの病気が完治したら。

田舎で道場を開こう。

子供たちに剣術を教えてあげるんだ。

剣で身を立てる。

それが私の夢なんだもん。

 

そしたら。

 

そしたら……私にもいい人が現れるかな。

ずっとずっと優しくて。

私だけ。

想ってくれる人。

そしたら…………その人を好きになれるよね。

幸せに、なれるよね。

忘れ…………られるよ、ね……。

 

 

 

 

 

私は上を向いて。

空を眺める。

薄暗いぼやけた雲がゆっくりゆっくり東の空へと動いてる。

溜まったものが。

落ちないように。

落ちないように。

 

それは。

雨なのか。

雪なのか。

私の涙なのか。

 

 

 

 

 

一生に一度の、大きな恋。

本当に感謝してます。

貴方がいなかったら、私はここまで来れなかった。

本当に本当に、ありがとうございました。

 

 

だから。

 

 

 

もう、二度と出てこないで。

 

 

 

 

 
「慟哭 ― 第四章」
20070126



「慟哭」編で唯一の鈴花視点でございます。
沖田さんこの時千駄ヶ谷じゃなかったでしたっけ?当初千駄ヶ谷で描いてたんですが大きくひっくるめて「療養所」に(ひっくるめすぎ)
もうちょびっとだけ続きます〜。










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