なんで人間にこんな感情があるんだろう。
なんでそんなものがこの世に存在するんだろう。
“恋”なんて。
――するもんじゃねぇよ。
「……ガキ、だったなぁ……」
もう。
床に入ってどのくらい経ったんだろう。
「すぐムキになって、すぐ人のこと信用して――単純でさ」
あと。
どれくらい経ったら寝付けるんだろう。
「真面目で、固くて、うるさくて…………疲れるよな、普通」
伸ばした俺の腕。
そこにはいつもきみの頭が置いてある。
腕を枕代わりにして。
ほら、今だって。
微笑んで俺を見てる。
この布団の上で。
きみは。
いろいろなきみを見せてくれる。
嬉しい事があったら笑顔で報告してくれて。
悲しい事があったら泣いて縋ってくれて。
組み敷くと俺の名前を呼んで、女の顔をして。
その後は。
『おやすみなさい』と顔を赤らめて、俺に小さく口づけをする。
俺はそれがたまらなく大好きで。
きみが目を閉じるまで、俺は目を閉じなかったんだぜ。
寝付くのを確認してから。
俺も夢現の世界へと飛び立ったんだ。
それが。
俺の日課だった。
微笑みの絶えないその頬に。
そっと手を翳すと。
いとも簡単に消える幻影。
何回目かの寝返りをうつ。
今の俺の腕に彼女の頭はない。
重さを感じてない。
何もない。
空気だけ。
俺はそんな自分の腕を。
見ていた。
夜になれば。
六日間、ずっと。
彼女の幻とともに。
「いいじゃねぇか…………女ひとりくらい俺から離れたって……」
きみがいない。
ここに。
俺の傍に。
「ああ、また遊びにでも行くかな……全然ご無沙汰だしなぁ」
きみがいない。
だったそれだけなのに。
俺には他に女もいたのに。
なんでだ?
「俺モテるし…………誰でも抱けるし…………」
きみが、いない。
たったそれだけなのに。
壊れそうだ。
どうにかなっちまいそうだ。
「……………………花……」
俺は抱き締めた。
彼女のいない空を。
そして。
ぎゅっと瞑った目頭から。
涙が出た、気がした。
近藤勇ともあろう者が。
情けない。
無理に決まってる。
彼女の悪いとこなんか、嫌いなとこなんか見つからない。
他の女なんかのとこへ行けるはずもない。
俺の身体には彼女の感触しか残ってない。
彼女しか求めてない。
俺の大好きな、彼女の感触。
温かさも柔らかさも心地の良さも。
――明日。
俺の話を聞いてくれないか――?
俺はきっと。
大事なものを失くそうとしてるから。
このままじゃ、この先ずっと後悔するから。
失いたくないんだ。
何よりも。
誰よりも。
そして
――“間に合わせたい”んだ。
だって。
俺には、もう――。
な?
だからイヤなんだ。
“恋”なんて、するもんじゃねぇんだ。
辛いだけだ。
辛くて。
痛くて。
悲しくて。
こんな感情いらねぇよ。
「慟哭 ― 第二章」 |
20061229 |