朝から花火が打ち上がる。
雲も疎らな青い空。
梅雨の時期なのに暫く雨も降らなそうだ。
例外なく誰もかれもが浮かれてる今日。
さて2年目の体育祭。
本気の本気で今年は。
払拭、したい。
二人三脚。
「あ、佐伯くーん」
「今年は何? 二人三脚?」
「確か去年もそうだったよね」
いつも屋上で飯を一緒に食べてるメンバー。
ああ。
朝から、もう。
心の中で、溜息。
「去年さぁ、佐伯くんあのコと組んでなかったっけ?」
「えぇと、秋月さんでしょ?」
「2位だったんだよね?
でもあれってさ秋月さんが悪かったよね、一人で転んでさ」
途端。
眉の端が動くのが分かった。
「あんまり運動神経よくなさそうじゃない? それなのに佐伯くんと組んじゃったりしてさ」
「ねぇ、今年は私と組もうよー」
そういうこと考えてたワケな、こいつら。
「あはは、ごめん。 今年はリベンジの年なんだよ。
だからみんなとは来年ね」
「えぇー!?」
俺はその場から離れ。
七海を探した。
テントの傍に、いる。
「七海」
「あ、瑛くんだ」
「おまえ、今年は?」
「え、えーと……」
小さく“二人三脚”と呟いたのを聞き逃さなかった。
「よし、組むぞ」
「え?」
「紐、貰って来いよ」
「……イヤだよ」
「は?」
はっきりと断る七海。
「わ、わたし……瑛くんの周りの女の子たちに言われるのイヤだよ」
「おまえ……」
「去年とかね、影で言われてたんだよ、“佐伯くんと組むから”とか“トロいのに”とか……」
「………………」
「瑛くんにも……息が合わないって言われたから、きっと今年もダメだよ」
俺は溜息をついて。
実行委員に紐を貰い。
俺と七海の脚を結んだ。
「え?」
「おまえと一緒に出る」
「だ、だって……」
紐を結び終え。
強引に七海を連れて。
「俺たち、息合わなくないよ」
「………………」
「去年は途中まで1位だったんだ。 けどおまえが結んだ紐が緩んでダメだったろ? 今年は俺が結んだんだ。 大丈夫だろ」
「でも……」
「ビリでもいい。 何言われてもいい。 頑張ろうぜ」
「瑛くん……」
そう言って。
七海のアタマをポンポンと。
にしても。
「ほら、ちゃんと歩け」
「ちょ、ちょ! 瑛くんの歩幅が大きくて……!」
「……仕方ないな」
「きゃっ!?」
七海の腰を持ち。
半ば抱えながら歩く。
「み、みんな見てるっ!」
「もう、おまえウルサイ」
そうだ。
結果なんてどうだっていいだろ。
こいつが何言われても。
俺が。
庇ってやろう。
守ってやろう。
そう、思ったんだ。
スタートラインに立ち。
ピストルが鳴れば。
4組同時に走り出す。
俺の掛け声に合わせ、七海も頑張って走る。
今のとこ2位。
コーナーを回って直線に入るとこ。
前の組との距離が徐々に詰まる。
「七海、諦めるなよ!」
「うんっ!」
2回目のコーナー。
ようやく外から。
前の組を追い越し。
そのままゴール。
「やった!
1位だ!!」
俺は両手を上げ、七海とハイタッチをする。
「う、嬉しい! 瑛くん!!」
「エライぞ、おまえ! 頑張ったな! な、息合ってるだろ?」
「うん……うん!」
七海は紐を解こうとしゃがむ。
けれど。
だいぶ難航気味。
ああ。
だいぶきつめに結んだからな。
俺がしゃがみ、それを解き始める。
隣の七海は。
うっすら涙目。
「――瑛くん、ありがとう」
その姿に。
俺は。
真っ赤になり。
「バッ、バカ! こんなことで礼なんて言うな!!」
「ご、ごめん!」
「……俺こそ、悪かったよ」
「え?」
「去年……2位だったから」
ああ、と七海。
「何で? わたしが転んじゃったからだよ。 瑛くんなんにも悪くないよ。
わたしこそごめんなさい」
そうじゃない。
俺がくだらない八つ当たりなんてしたから。
「――ひとまず去年のリベンジはできたんだ。 来年は……」
「来年は……」
紐が解ける。
立ち上がって。
スタンドまで。
「来年は瑛くんの、いつもお弁当食べてる女の子たちの中から選んであげてよ」
「七海……」
「二年もわたしが瑛くん、独り占めしちゃたから」
「………………」
「でも今日は本当にありがとう、わたしもすっきりしちゃった」
手を振って七海は、スタンドの自分の席へと戻った。
独り占め、か。
おまえがするのなら。
いくらでも俺は構わないんだけどな。
俺も自分の席に向かうと。
何人か、女たちが手を振ってる。
俺も、それに笑顔で答える。
できるなら。
変えたい。
変わりたい、と思ってる。
本当は。
こういうとこも。
俺も。
おまえとの関係性も。
気兼ねなく。
こんな小さなことでも素直に喜べるくらいに。
暫くは、無理か。
誰にも気づかれないように。
俺は小さく。
息をついた。
「want to change」 |
20170502 |