ダルいなぁ……。
いい天気なんだけど。
ホントダルい……。
こんな天気のいい日には。
浜で日光浴でもしたいくらいだ。
てゆーか。
なんだかどいつもこいつも浮き足立ってる。
たかが体育祭で。
さっさと出番を終わらせて。
屋上かどっかで寝るかな。
……今年はリレーもないし。
体育祭。
俺が出るのは二人三脚。
全校で4つに分かれて競技する。
だから確か1年のどこかのクラスと同じ組になるはずなんだけど。
さて。
誰と組むか。
ふと目に留まった人物。
相変わらずボケッとしてんな。
「秋月」
呼ばれて振り返る。
「あ、佐伯くん」
「おまえ、何出んの?」
「えーと、二人三脚?」
コイツのクラスは確か……。
ああ、俺と同じ組になるクラスだ。
「おまえのクラスとウチのクラスって、確か同じ組なんだよな」
「あ、佐伯くんのクラスと同じ組なんだっけ」
「俺と組むか?」
「え?」
なんだかビックリされる。
「いいだろ。 メンドクサイし」
「でも、他に佐伯くんと組みたいコたくさんいるんじゃない?
ほら、屋上で一緒にゴハン食べるコたちとか」
“あ〜……”と空を仰ぐ。
「あの中から誰かと組んだらまたメンドイだろ? “あのコと組んだ”とか“何で私じゃないの?”とか」
「ああ……」
「おまえなら一番手っ取り早いだろ? ほれ、さっさと支度しろよ」
“わたしでも同じコト言われると思うんだけど……”と小さく呟く秋月に。
俺は。
ポカッ!
「!? 何、今のチョップ!? なんで!?」
「いいから支度」
渋々紐を貰って秋月は俺の脚と自分の脚を結んだ。
そろそろ出番。
「いいか、俺の足引っ張るなよ」
「う、うん……運動神経、ちょっと自信ないけど……」
「あ? おまえな……ちっとは気張れ」
「が、頑張る……」
「いいな。 俺の掛け声に合わせろよ」
スタートラインに立ち。
煙と共に。
パンと音が鳴る。
「行くぞ、せーの」
4組が一斉に走り出す。
ぎこちなく、それなりに交互に脚が出。
秋月は俺よりはるかに短いだろう脚を一生懸命動かし。
なんとかトップに立つ。
やっぱ前に人がいないのって気持ちいいな。
もう少しでゴール地点。
このまま行ける――なんて思ってたら。
緩んでたのか脚を結んでる紐を踏んでしまい。
見事。
秋月が転んだ。
「お、おい!」
俺は慌てて秋月を起こし。
再びゴールへ向かうけど。
後ろから来てた違う組のヤツらに抜かれ。
結局2位でゴールだった。
「あーっ!
2位かよー!! もう、おまえのせいだろ! 完全に!!」
「ご、ごめん……」
「ああ……俺たち息が合ってないのかもな…………あー、ホントヘコむ……」
俺はなんだか悔しくて。
紐を解いて。
秋月を置いてさっさと校庭を後にした。
もうちょっとだったのに。
ビリならともかく。
いや、ビリでもイヤだけど。
2位ってのが悔しい。
俺は誰もいない教室へ戻り。
自分の席に座る。
はぁーっとデカい溜息をついた。
べつに体育祭くらいでそんなにムキにならなくてもいいって分かってんだ。
あいつのせいにしたって。
仕方のない事だってのも分かってる。
ああ、でも2位ってな……。
まだ外じゃ賑わってる。
わーわーきゃーきゃー、と。
ま、頑張ってくれ。
俺はフォークダンスまで屋上で寝てる。
教室を出ようとして。
立ち止まった。
俺。
そういや、あいつ置いてきちまったんだな。
今頃、まだ校庭にいるか。
確か。
持ってるよな、俺。
でも、もういないだろ。
でも……。
「………………ああ、もう!」
俺は息をついて自分の席まで戻って。
カバンの中を漁った。
「……ありがとう」
「ていうかさぁ、七海ほっぽってドコ行ったん? あいつ」
校庭にいなくて。
もしかしたらと思って来たら。
ドンピシャだった。
声がする、保健室。
でも。
あいつ一人じゃなかった。
「もう、いいんだよ。 わたしが悪いもん」
「でも見てたで? 何言われたか聞こえへんかったけどアレはアカンやろ、女のコに対して」
「ううん、はるひちゃん。 佐伯くんは……間違ってないよ…………わたしがね……わたし、情けなくて……」
西本が秋月を宥めていた。
中に入れず、廊下でそれを聞く。
「ああ……ねぇ、七海〜……泣かんでよ〜」
「だって……悔しい…………」
「サエキックだってそんな怒ってないわ。 2位だったやないの」
「でも……でもわたしのせいだって、言われた…………悔しいよ」
その声は。
すでに涙声。
「よし、これでオッケー。 消毒しみてへんやろ?」
「うん……はるひちゃん、ありがとう」
「元気出し! もう行くで、一緒にウチのクラス応援せな!」
「うん」
二人が保健室から出る気配がして。
俺は慌てて物陰に隠れる。
保健室を出た二人が角を曲がって見えなくなるまで。
持ってた絆創膏をひらひらさせて。
溜息をつく。
意味、なかったな――。
その後は。
フォークダンスでも。
秋月の姿はあっても俺と組むことはなく。
その脚を痛々しく思うけど。
何だか。
空しい一日となっていった――。
水曜日。
じいちゃんが買い出しに出てて。
夕方の“珊瑚礁”には。
俺と秋月の二人きり。
あれから何も話してなくて。
なんか、気まずい雰囲気。
開店準備をしてる中。
「佐伯くん……あの、ね」
秋月が口を開く。
「あの…………わたし、ここ辞めようかと……」
「え…………」
思ってもみない。
セリフだった。
「…………なんで?」
「その…………部活に入ろうかと思って」
「……何の?」
「え……と、まだ決めてないけど……り、陸上とか……?」
「また、急だな……」
グラスを拭き終わって棚にしまい。
振り向けば。
カウンターを拭く秋月と向かい合わせになる。
「わ、わたしね……その結構トロいじゃない……?
で、なかなか機転も利かなくて…………佐伯くんやマスターに迷惑かけてるんじゃないかと思ってね。 ほ、ほらね……こないだもコンタクト踏んじゃったし……」
ああ。
そういうことか。
こないだも繁華街で偶然会った時。
落とした買ったばっかのコンタクト。
こいつがまんまと踏んでたっけ。
「あ、あの……ごめんなさい。 また、怒らせちゃった……?」
「もうちょっと運動神経とか、反射神経とかがよくなりたいってことか?」
「え……? あ、う、うん……まぁ、それに近い、かな……?」
「運動部入ったからってそんなのどうにでもなるワケないだろ? つーかいいよ、辞めなくても」
「え?」
俺の言葉が意外だったのか。
秋月は目を丸くする。
「おまえさ、そんなに運動神経悪くないよ」
「でも……こないだの体育祭…………」
「ああ、あれは…………その、俺……勝負事には何でも勝ちたい方だったからな。
コンタクトも気にしてない」
「迷惑、かけてない?」
「そりゃ、おまえ結構ボンヤリだからな。 だからココで俺がもっとこき使ってやる」
「へ?」
「そうすればもっと機敏にもなるだろ」
むーっと。
口を尖らせる。
「ボンヤリじゃないもん!」
「おまえはボンヤリだ」
「そんなことないもん!」
「じゃあ、証明してみせろよ」
「わかった! 仕事頑張って絶対見せてやるんだから!!」
真っ赤になって頬を膨らませ、テーブルを拭き始める秋月に背を向けた俺は。
笑いを堪えた。
結構単純なんだ、こいつ。
こないだまでなら。
「どんどん辞めてくれ」と言ってたに違いない。
だけど。
俺だって。
何でこいつを引き止めたか分からない。
仕事だって。
しょっちゅう間違ってくれるし。
だけど一生懸命だって。
それだけは、分かった。
ほんの、ちょびっとだけな。
本当は。
本当はあの体育祭だって。
悪くなかった。
おまえと一緒に競技に出られたからな。
ちょっとだけ。
楽しかった気が。
しなくも、なかったな。
……ほんの、ちょびっとだけだけどな。
「………………悪かった……」
「…………?」
テーブルを拭く手を止めた秋月が呟いた俺に振り返ったけど。
聞こえなかったようだった。
……まぁ。
お詫び、じゃないけど。
「おまえ次の日曜空いてる?」
「え?」
「俺に付き合えよ」
「え? え?」
「買い物に」
目を丸くして俺を見る秋月。
「買い物。 ショッピングモールでいいか。 あそこいろんな店あるし」
「何を買うの?」
「店の材料と…………あとちょっと」
「…………? うん、いいよ? あ、付き合ったら何か奢ってくれるの?」
俺はすかさず秋月のアタマにチョップをくれてやった。
「痛っ!」
「調子に乗るな」
「ちぇ……」
「100円までだ」
「ちょ……それじゃジュースも買えないじゃない!」
まぁ、それがデートと呼んでいいかは別として。
俺は。
ちょっとだけ。
本当にちょっとだけその予定を楽しみにしていた。
やっぱり。
何でかなんて、分からなかったけど――。
「sent an apology」 |
20070522 |