……よく、寝てるなぁ……。

 

お昼休み。

学校の中庭。

ちょっと人通りの少ない木陰。

もう外じゃお昼食べられないな。

そろそろ秋も本格的だし。

風も冷たくなってきたし。

でも今日はホントに暖かい。

 

女のコと一緒にお昼食べる事が多い佐伯くん。

もう、ないだろうと思ってたのに。

わたしは今日も佐伯くんと一緒にお昼を食べた。

これで3回目。

 

『悪い、寝かせて』

 

でもご飯を食べて、すぐに。

横になる。

これも今日で3回目。

今も。

静かな寝息が聞こえてくる。

 

いつもお仕事してるもんね。

だから寝かせてあげようとは思うんだけど。

 

この間、屋上でほかの女のコたちと一緒にご飯を食べてる佐伯くんを見かけたけど。

すごく楽しそうに話をしていて。

寝るとかそういう雰囲気はなかったんだ。

 

わたし。

もしかして。

すごくつまらない人間なのかな?

だからすぐに佐伯くん。

寝ちゃったりするのかな?

 

 

 

 

 

そういえば。

バイトを始めて二週間くらいした頃。

 

2番テーブル、シフォンケーキとストロベリーパイ、カフェモカとカプチーノ、お願いします』

 

まだオーダーしかまだやらせてもらえなかったけど。

そろそろ慣れてきた頃、かなと思ってると。

 

3番テーブル』

 

後ろからすっごく低い声。

恐る恐る振り返ると。

いやーな目をして佐伯くんがわたしを睨んでたっけ。

 

『ご、ごめんなさい……』

 

溜息をつかれ。

 

『テーブルくらいは覚えろよ』

『はい……』

 

叱られてしゅんとした。

 

『まあまあ、瑛。 週2回なんだ、無理はないだろう。 それに秋月さんはよくやってるよ』

『……ったく……なんでココのバイトなんか始めるんだよ』

『だって……』

『…………バレる…………絶対バレる……』

『こら瑛。 そんな口の利き方するんじゃない。 女の子だろう。 すみませんね、秋月さん』

『いえ……』

 

マスターが宥めてくれたけど。

それでも。

 

『………………』

『……何だよ』

『……佐伯くんって、みんなに愛想いいけど……こんな接し方する女のコ、他にいるの?』

 

そう聞いたことがあった。

 

『は?』

『だってねだってね……』

『おまえだけ』

『え……』

『おまえだけだよ。 仕方ないだろ、おまえは…………』

 

“あの朝の俺を見ちまったんだから……”と小さく続けた。

 

 

 

 

 

わたし、だけかぁ……。

それって。

いいこと……じゃないよね?

嫌われてるんだよね?

 

だって。

みんなには優しくて。

お昼休みだって予鈴が鳴るまで一緒にお話したりして。

 

だけど。

わたしには、それがない。

 

愛想がなくて、冷たくて、話し方もぶっきらぼうで、面倒くさそうで。

お昼休みもお話なんてしないし、寝てるだけ。

 

 

 

わたしは隣で寝てる佐伯くんを見る。

疲れてるんだな。

熟睡だ。

ホントによく寝てる。

 

へぇ、知らなかった。

睫毛長いんだな。

鼻筋も通ってるしな。

唇も形いいし。

髪もサラサラそう。

 

こうして見れば。

あんな佐伯くんなんか微塵も感じられない。

女のコたちが騒ぐのもよくわかる。

カッコいいし。

みんなには優しいし。

 

 

 

予鈴が鳴る。

わたしは佐伯くんを起こし。

相変わらずわたしを“カピバラ”と間違え寝ぼける佐伯くんをちゃんと立たせて。

教室へと向かう。

 

結局。

今日も昼休み終わっちゃった。

わたしたち。

何も話とかしないから。

佐伯くんのこと。

わたし何にも、知らないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は“珊瑚礁”でのバイト。

でも、何だか落ち込み気味で仕事をしていると。

マスターがわたしの様子に声をかけてくれる。

 

「どうしたの? 秋月さん。 元気ないね」

「あ、いっ、いえすみません! バイト中なのにダメですよね」

「今はお客さんもいないからね、大丈夫だよ」

 

佐伯くんは今。

買い出しに出ている。

 

「あの、佐伯くんっていつもあんなカンジですか?」

「あんな?」

「わたし……嫌われてるのかなって」

 

途端。

マスターは声を上げて笑う。

 

「違うよ、秋月さん。 ごめんね、瑛はどうも不器用みたいで」

「え……」

「それは、きっとあなたが一番気の休まる人物なんだと思います。 気を遣わず背伸びもしないで普通の16歳の瑛に戻れてるんだと思います。 いつも女の子に囲まれてるみたいだからね、ココの仕事もあるし結構疲れてるみたいで……でも、きっとあなたには心を許してるんだと思いますよ」

「……そう、なんでしょうか?」

「僕の言うこと、信じてもらえませんか? 瑛の考えてることくらいわかりますよ、孫ですからね」

 

佐伯くん……。

そうなの?

 

「じゃあ、わたし…………」

「そのままで瑛を受け止めてやって下さいませんか? 嫌われてるだなんてとんでもない。 むしろその逆、なんじゃないかな」

「え?」

 

それはどういう意味ですかと聞こうとした時。

裏口が開いて佐伯くんが帰ってきた。

まじまじと見るわたしに。

不審な顔をして。

 

「……? なんだよ? つーかちゃんと仕事しろよ?」

 

マスターを見ると。

「素直じゃないな」と苦笑している。

 

「マスターと似てるんですか?」

「あはは、昔はね」

「想像がつかないです」

「意地っ張りで、頑固で……瑛がそうでしょう?」

 

わたしは笑った。

佐伯くんがおかしな顔してわたしたちを見てる。

 

 

 

そっか。

わたしだけだった「あの」佐伯くん。

 

愛想がないのも。

冷たいのも。

話し方もぶっきらぼうなのも。

面倒くさそうなのも。

 

 

 

だったら。

佐伯くんが仕事と学校で疲れが溜まらない様に。

少し休息の時間を作ってやろう。

 

 

 

「ねぇ、佐伯くん」

「なんだ?」

 

わたしは佐伯くんにこっそりと話し掛ける。

 

「次のお休み空いてる? 一緒に森林公園行かない?」

 

 

 

 

 
「resting place」
20070605



よくよく考えたらこの人たち全然デートしてないじゃん。
で、ようやくデートに誘いましたよ、ウチの主人公は(爆笑)
時間の問題ですか?私もそう思います( ̄▽ ̄)










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