「むー……」
今日は2月14日。
もう昨日から学校内も慌しい。
わたしも昨日の学校帰り商店街でチョコを買った。
で、志波くんと。
氷上くんとハリー。
先生にはあげた。
そして。
作ったチョコ。
やっぱり。
バイトもしてるし、みんなの中で一番接点があるし。
結局。
瑛くんにあげることに決めたチョコ。
瑛くんを探しに廊下を歩く。
今日はもうホントにバレンタイン一色で。
どこもかしこも男の子にチョコをあげる女の子ばかり。
そうして。
「瑛くん」
「あ、ああ……おまえか……」
ようやく出会えた瑛くんだったけど。
両手には今にも落ちそうなくらいのチョコをたくさん抱えていて。
心なしか顔色も悪いみたいだった。
「だ、大丈夫?」
「ああ……毎年のことだ……」
「断れ……ないもんね」
「あー……だな……」
わたしは咄嗟に持ってた紙袋を後ろへ隠す。
「毎年毎年これだ……さすがにこの時期はチョコを見たくないんだ」
「あ、あはは……だよねぇ」
「学校でも店でも……ホントにウンザリだ」
「でも……食べてやらなきゃね。 きっと手作りのコもいるよ?」
「あー……憂鬱……」
「まだお昼だからね。 がんばって」
「……ああ……」
瑛くんと別れる。
あー……。
ムリ、だよね。
だってこれ以上増えたら瑛くん迷惑しちゃうかも。
昨日。
遊くんと一緒に作ったチョコ。
どうしようかな?
一応。
ホントに一応瑛くんのコトを思って作ったけど。
それをほかの人になんてあげられない。
うん。
自分で食べよう。
うまく出来たと思ったんだ。
だからきっと美味しいよね。
そして。
たぶん、この先ずっと。
瑛くんにはあげられないんだろうなぁ。
きっと迷惑しちゃうもんな……。
「うん、美味しかった!」
公園のベンチに座って。
クシャクシャになった包装紙を見つめる。
ごめんね。
瑛くんにあげられなかった。
バイト先でもあげられないと思うし。
でも。
きっとお菓子作りなら瑛くんの方が上手だと思うから。
あげても辛口コメントしか聞けないだろうな。
ああ……もうちょっとお菓子作りも頑張らなきゃな。
この先チョコあげた時に。
マズイ顔されるのもヤだし……。
「七海?」
「きゃっ!」
「うわっ!」
後ろから急に瑛くんに声を掛けられ。
ビックリして声を上げてしまった。
「なんだよ……ビックリさせるなよ……」
「そ、そっちこそ……!」
「何やってんだ? こんなとこで。 今日バイトだろ?
つーかさっさと来い。 あ……? 何? それ」
「え……」
わたしの横にあった包装紙を見て瑛くんはわたしに聞く。
「…………包装紙?」
「あっ! う、ううん! わたしのゴミだから」
「ふーん……まぁいいや。 行くぞ?」
歩き出した瑛くんの手には。
大きな紙袋。
隙間なんてないほどにチョコがぎっしりと。
「なぁ」
「ん?」
「おまえさ……チョコは?」
「え?」
「おまえ、俺にチョコは?」
わたしに背を向けたまま。
瑛くんはこっちを見ようとしない。
「チョ……チョコ?」
「そう、チョコ」
「な……なんで瑛くんに……」
「俺に世話になってるだろ? その感謝のチョコは?」
何、言ってるのよ……。
ムリじゃない、瑛くんにチョコあげるのなんか……。
あんな迷惑がってる顔なんか見たくないもん。
「あ、おねえちゃーん!」
見ればお隣の遊くんが。
やっぱり大きな紙袋を持ってこっちにやってきた。
「あ、佐伯さんだ! こんにちは! あ、見てくれよ、おねえちゃん。
俺こんなに貰っちゃってさー! あれ? おねえちゃんはちゃんと渡した?」
「え……」
「昨日一生懸命作ったもんねー。 あの赤い包装紙の。
美味そうにできてたもんなー。 あ、いけね。 俺デートの約束してたんだ! じゃ、またね!」
手を振ってわたしたちに別れを告げる。
ゆ、遊くん……。
なんであんなコト言っちゃうかなー……。
「…………おまえ、作ったの?」
「え? え……あ、いや……あのね……」
「それ、誰にあげたんだよ」
「だ……誰に…………」
「へぇ……言えないんだ」
瑛くんはニッと笑って。
「来月、タダ働きしてもらうかな」
「えっ? いや……あの……っ」
もう誘導尋問のように。
しつこいくらいに答えを求められる。
観念したわたしは。
「あの……昨日ね作ったんだけど…………自分で食べちゃった」
「ハァ?」
「その誰にも……あげてなくて……」
「おまえさ……俺にくれなきゃいけないんじゃないのかよ?」
「な……!」
「はぁ……もういい。 今日バイトあるから明後日、また作って持って来い」
「え?」
「俺が採点してやる。 キビしいぞ? 俺は」
二日後。
また作って。
改めて瑛くんにチョコを渡すことになった。
わたしが止める隙もなく、その場で食べられてしまった。
絶対悪いことしか言わないと思ってたから。
わたしは目をぎゅっと瞑って、両耳を塞いでいたら。
「何だ、つまんない」
へ?
恐る恐る目を開け、耳から手を離せば。
瑛くんは本当に残念そうな顔して。
「ちぇ、いろいろ言ってやろうと思ってたのにさ……意外に美味くてヤダ」
………………ヤダって何よ。
「no hand affection」 |
20110801 |