なんだか今日は蒸し暑いな。
もう9月最後の日なのに。
でも。
こんないい陽気の日にはやっぱりお昼は外だよね。
チャイムが鳴って。
わたしはカバンからお弁当を出す。
さぁて、今日は誰と食べよっかな〜。
確か竜子さんはお休みで。
千代美ちゃんは生徒会室でお昼。
はるひちゃんはお友達とお昼。
だったら。
隣のクラスへ。
「密ちゃーん!」
「あ、七海さん」
「一緒にお弁当食べない?」
「ふふ、いいわよ。 どこへ行こうか?」
「中庭行かない?」
「うん、じゃあ私ちょっと音楽室へ寄っていくから先に行っててくれる?」
「了解!」
お弁当を持ち教室を出て。
昇降口まで走る。
すると。
「あれ? 佐伯くん?」
傍から見ても肩をビクッと揺らし。
笑顔でこちらに振り返る。
「あ、ごめんね。 今から行こうと――」
わたしだと分かると。
その笑顔は一瞬にして消え失せ。
おっきな溜息を吐かれた。
「………………おまえかよ……」
「あ、ご、ごめんね? 女のコと間違えちゃったんだね」
「……ウルサイ。 俺はさっさと身を隠――」
「あっ! 佐伯クーン!!」
「うわ……ヤバ…………!」
3人の女のコ。
遠くで手を振っている。
「今日お昼約束したよね? 行こうよ」
「あ、あはは、うん、ごめんね? すぐ行くよ」
手を振り応える。
「……はぁ……それじゃあ……」
「う、うん……」
瑛くんは溜息をつきながらわたしに背を向け。
屋上へと歩き出した。
そういえば。
わたし、佐伯くんとお昼一緒に食べたことなかったな。
楽しいのかな?
楽しいよね?
じゃなかったらあんなに女のコが毎日毎日誘いにくるはずないもの。
どんなもんなんだろう。
……一度だけ。
一緒に食べてみたいな。
なーんて。
ムリな話だよね?
そうしてわたしは昇降口へと急いだ。
その時、佐伯くんが振り返ったことも知らないで――。
密ちゃんと中庭にお弁当を広げて。
木陰に座って食べる。
「今吹奏楽部は忙しいの?」
「んーとね、今度ね定期演奏会があってね」
すると。
屋上から楽しそうな女のコの笑い声がし。
校舎の屋上を見上げる。
きっと。
佐伯くんたちだ。
何だかんだ言っても今頃は楽しくごはんを食べてるんだろうな。
「ふふ、気になる? 屋上」
「え?」
「だって、あれって佐伯君たちだよね?」
「ちーっとも、気にならない。 楽しそうで何より」
次の密ちゃんの言葉で。
「私、七海さんと佐伯君合ってると思うな」
ぶーっと。
吹き出しそうになってしまった。
「え? え? 密ちゃん?」
「だって、佐伯君あなたといると楽しそうなんだもん」
「全っ然有り得ないよー。 わたしには優しくないんだよ」
「男のコはね、優しいばっかじゃダメなのよ」
密ちゃんは笑って。
傍らに置いてあった本に目を通す。
「ほら、七海さんの今週の恋愛運バッチリよ」
「え?」
「ふふ。 この占いの本、よく当たるのよねぇ」
……もう、密ちゃん……。
本当にそんなコトないんだよ?
いつだって無愛想で。
威張ってるし。
チョップだってしてくるし。
「女のコは素直が一番」
密ちゃんはわたしの気持ちもおかまいなしで。
お弁当のウィンナーを頬張っていた。
予鈴も鳴り。
教室へ帰る最中。
また佐伯くんに会った。
「あ、お疲れ」
「…………ホント疲れた。 放っておいて欲しい……昼休みくらい」
「楽しそうだったよ?」
「……周りはな」
「……ねぇ、断れないの?」
「ああ、無理」
「……どうして?」
どこか疲れを隠し切れない表情の佐伯くん。
「断ったら大変だろ? 誰かに冷たくしただの、誰かと付き合い始めただの。
そういうゴチャゴチャがヤなんだ」
「ああ…………学校で問題起こせないとかあるから?」
「まぁ、そんなとこ……」
「……疲れてる、よね?」
「……少しな」
大変なんだ。
佐伯くん。
学校でいいコでいなきゃいけないからって。
せっかくのお昼休みも返上して。
みんなの王子様でいなきゃいけなくて。
なんか。
可哀相だな。
本当に疲れてるみたいで。
何となく。
佐伯くんもやつれてる様なカンジ。
「おまえ、いつも誰と食べてんだ?」
「え? えーと、密ちゃんとかはるひちゃんとか……」
「へぇ…………おまえとなら……」
「……?」
佐伯くんは何かに気づいたように。
「今度、俺と食べるか。 昼」
「えっ?」
「明日は……何だか予定があったな。 ああ、また今日と違うメンバーだ。
明後日なら空いてるから」
「え? え?」
「明後日昼、空けとけよ。 じゃあな」
それだけ言って。
佐伯くんは教室へ戻ってしまった。
佐伯くんと。
お昼?
思ってもみなかった。
いや、確かに食べてみたいなとは思ってたけど。
でも、ないと思ってたから。
ふいにさっきの密ちゃんの言葉を思い出す。
『佐伯君と合う』
『恋愛運バッチリ』
わたしは首をブンブンと振った。
ないって。
それは、ない。
「もう……密ちゃんがヘンなコト言うから……」
友達。
そうだ、友達だからだよね。
友達……そう言っていいのかどうか分からないけど。
少なくとも。
きっと向こうにはそんな気持ちないから。
明後日か。
お昼、どうしようかな。
何かの時の話で昼は購買のパンだって言ってたっけ?
自分で作らないよね?
だったら。
お弁当……作ろう、かな。
え?
あ、いやっ!
し…………仕方、ないから。
パンじゃ可哀相だからっ。
うん、そう! 仕方ないからっ!
……かなりの百面相だったらしく。
いつの間にか隣にいたはるひちゃんに。
“アンタ、大丈夫なん?”と心配されちゃったけど。
そう。
まだこの時のわたしには。
そんなに自覚がなかった。
佐伯くんの事。
完全に自覚するのは。
ホントに。
近い将来の事――。
「lunch time」 |
20070602 |