「はぁっ……はぁっ……!」
学校まであと少し。
いつもなら走らない学校までの道を。
わたしは今全速力で走ってる。
あぁ〜っ、なんでわたし寝坊するかな〜。
今日日直だったのに。
起きた時には目覚まし時計は止まってたから。
きっと一度は起きたんだと思うけど。
早くみんなが来る前に日誌書かなきゃ。
わたしは学校へ着くなり職員室へ駆け込んで、若王子先生から日誌を受け取る。
今は始業40分前。
大丈夫。
この時間じゃクラスのみんなはまだ来てない。
ほっと息をついて。
自分の教室へ向かう途中の教室で。
朝早いのにひとりもう教室で勉強してる男のコがいた。
エライな。
勉強してるなんて。
わたしはその光景をドアのガラスから覗く。
「あ」
瑛くんだ。
こんなに早く学校に来て勉強してるんだ。
ていうか……。
顔を上げた瞬間。
わたしとバッチリと目が合う。
「あ、お、おはよう」
「なんだ……誰かと思った」
わたしはドアを開け挨拶する。
「いつもこんなに早いの?」
「いや、たまにだな。 昨日家で今日の予習できなかったから」
「すごいんだ、瑛くん。 エライよ」
「すごかない。 エラかない。 俺が勝手にやってることだ。
つーかおまえずっと見てたのか? 趣味悪いな」
「うぅ、ゴメン……でも、瑛くん…………メガネかけてたんだ」
瑛くんはメガネを外し。
「そりゃかけるよ。 目ェ悪いんだから」
「なんでメガネにしないの?」
「だって……カッコ悪いしさ」
「え? でも似合ってたよ」
途端瑛くんは赤くなって。
「に、似合ってない!」
「カッコよかったよ?」
「カ……! いや、もういい! おまえもう自分の教室行けよ!
早く終わらせんだから!」
「はぁーい」
じゃあ、またねと教室を出ようとすると。
「おまえ……氷上と仲いいよな?」
「え?」
「……ゼッタイ、氷上には言うなよ……」
「?? 何を?」
「だ、から…………カッコ、いいとか……」
小声な瑛くんの呟きが聞こえなくて。
聞き返したら。
瑛くんは立ち上がって。
わたしのところへ来ると。
背中を押して。
「もういいって! 早く行け!」
ピシャッとドアを閉めてしまった。
瑛くんは再び席につき。
勉強し始める。
全然怒るコトないのになぁ……。
なんかメガネの瑛くんってすごく新鮮だったし。
でも。
すごい。
誰も知らない所で瑛くんは努力してるんだなぁと。
元々の才能はあるにせよ。
それに頼って疎かになる時だってありそうなのに。
お店だってあるのに。
改めて瑛くんはスゴイと思った。
でも。
なんで氷上くんに言っちゃダメなの?
ていうか。
何を?
どうにも分からなくて。
首を傾げっぱなしで教室へと戻った。
その後の瑛くんは。
なかなか勉強に集中できず。
結局クラスのみんなが来るまでに予習が終わらなかったって。
数年後、わたしたちがこの時以上に仲良くなる頃。
またわたしの前でメガネをかけてくれた時になって。
本人から聞かされる事となった。
「hard worker」 |
20110801 |