「髪よし、イヤリングよし、リボンよし!」

 

何度も何度も何度も。

鏡の前でチェックする。

お母さんにも見てもらって、ようやく家を出た。

街は数日前から赤や緑の装飾に、イルミネーションに、クリスマスソングに包まれてる。

 

 

今日は初めての、学校でのクリスマスパーティー。

 

 

ていうか。

一応コートは着てるけど。

本当にあるんだよね、パーティー……。

だって本当はそんなのなくてわたしだけこんな格好だったら。

すごく恥ずかしくない?

やっぱり誰かと待ち合わせすればよかったと心配になってたら。

途中で竜子さんと合流。

私が安堵した顔したら訳を訊いてきて。

 

「アンタは気が小さいね」

 

って笑われちゃった。

竜子さん、いつ見ても素敵だな。

すらっとした細身の長身だから。

会場に着いてコートを脱いでも。

黒のシックなドレスがよく似合う。

カッコイイな。

これくらい背があればな、と思うもの。

 

 

 

 

 

全校生徒がほとんど来てるパーティー。

ただでさえそんなにも友達いないのに、これじゃ知り合いを探すのも大変。

 

「おっ、秋月! めかしこんでるじゃねぇかよ」

 

振り向けばハリーだった。

ハリーと志波くん。

二人ともスーツ姿で素敵にキメているけど。

 

「な、何だか意外な組み合わせだね……」

「俺ら? だって俺らニガコクだからな」

「ニ、ニガコ……?」

「何でもない……気にするな」

 

志波くんが無理矢理ハリーの腕を引っ張って傍を離れようとする間際。

 

「でもおまえちゃんと似合ってるじゃねぇか、なぁ志波」

「ああ……まぁ、そうだな……」

「んじゃなー」

 

ほ、褒められた……よね。

だ、大丈夫だったかな……すごく自信がないけど……。

他の女のコたちは結構可愛いドレス姿。

ヘンに浮いてないかなって、さっきからすごく心配になってるんだけど。

ハリーにそう言われて少し安心した。

 

「男に褒められて有頂天になってんなよ」

 

ちょ……わたしの事!?

そんな事ないもん!

声のする方に振り向いてそう一言言ってやろうと思ったその時。

その姿に驚いた。

佐伯くんだった。

 

「さ、佐伯くん?」

「は? 俺以外誰だよ」

 

青のスーツに黄色のタイと開襟シャツ。

すごく新鮮。

背もあるから悔しいほど。

 

「何だよ、その顔。 何か言ってみろ。 だいたい図星だろ、普段褒められないから」

「ぐ……」

 

確かに。

悔しい。

本当に何も言えない。

 

「へぇ、でもいいんじゃないの? そういうの」

「ほ……ほんと?」

「ああ、悪かない」

 

な……何だろう。

ヘンな安心感。

何か本当に、最近ね。

佐伯くんに褒められると……何て言うか。

嬉しい……って言うのかな。

普段全然褒められるとかないから。

余計、そう思うんだよね。

 

「佐伯くん、来てたんだね」

「まぁ……興味はないけど……たまにはいいかなと思って」

「佐伯くーん!」

「うわ…………来た……」

 

佐伯くんの背後に数人の女の子。

 

「また……後でな」

 

そう言って振り返った佐伯くんは。

 

「やぁ、みんな。 今日も一段とカワイイね」

 

若干棒読みチックにはなっていたけど。

また、後で……か。

後でまた話せるのかな?

今日、こんな日だし。

話せたら……いいな。

 

――ってわたし何考えてるの。

 

ムリに決まってる。

佐伯くん忙しい人なんだから。

ほら今だって。

大勢の女の子に囲まれて、ニコニコしてるし。

 

みんなの前のニコニコしてる佐伯くん。

わたしの前のツンケンしてる佐伯くん。

 

 

 

“本当の”佐伯くんかぁ……。

 

 

 

「アンタは佐伯が好きなの?」

「うわっ!?」

 

ビックリしてると竜子さんが両手にジュースを持ってきてくれて。

 

「な……!」

「ずーっと見てるしさ」

 

グラスを差し出されてそれを受け取る。

 

「そ、そんなコトないよ。 だって佐伯くん……周りにたくさん女の子いるもん」

「諦めるの?」

「あ、諦めるというか……そういうのじゃないような……」

「アタシはいいと思うけどねぇ」

 

壁際の椅子に二人座る。

 

「竜子さん?」

「アンタたち似合ってると思うし、それにそういう感情いいんじゃないの?」

「竜子さん……」

「ん?」

「竜子さんも恋とかしてるの?」

 

途端思いっきり口にしてたジュースを吐き出した竜子さん。

赤い顔して半分怒ったようにものすごく否定されたけど。

 

お似合いって。

前に密ちゃんにも言われた事があったっけ。

 

 

恋、か……。

そう言えば恋とかしてないな。

高校に入ったら素敵な人を見つけたいとは思ってたのに。

こんなクリスマスの日には。

一緒に過ごしたいと思う人を見つけたいと思ってたのに。

もう今年はそんな奇跡の様な事は起きないじゃない?

わたしの周りにいる男の子はみんな友達だし。

 

 

佐伯くん……。

実際わたしと似合ってると……思えないんだよなぁ。

 

 

 

 

 

わたしと竜子さんの所にはるひちゃんも千代美ちゃんも密ちゃんも来てくれて話に花が咲く。

それに夢中で突然のざわめきに驚いてると。

それが今からプレゼント交換だと分かる。

 

「きゃー、プレゼント交換だって!」

「うわ〜、誰のが回ってくるんやろな!」

 

密ちゃんやはるひちゃんに腕を引っ張られて、会場の中央に集まる。

音楽が鳴り、サンタクロースに扮した人が大きな荷物を抱えやってきた。

わたしがいる位置よりだいぶ離れた所に佐伯くんもいた。

やっぱり周りに女のコを携え、笑顔で。

 

そのサンタクロースは荷物の中から一人一人にプレゼントを渡す。

千代美ちゃんも竜子さんも貰って、次にわたしの番。

貰ったのは。

 

ず、“頭脳コーヒー試飲券”……???

 

「あ、秋月さん。 先生のプレゼントが当たっちゃいましたね。 君はすごく強運の持ち主です」

 

わ、若王子先生のプレゼント?

わ……わたしの成績が悪いから……??

うわ、こないだの期末思い出しちゃった。

学年で100番くらいだったんだよね……。

本当にこれで試飲してみよかな……。

 

「佐伯くーん、佐伯くんのプレゼント私に当たったのー!!」

 

その声で顔を上げる。

確か佐伯くんと同じクラスのコじゃなかったかな。

すごく嬉しそうにはしゃいでる。

 

「本当? それは良かった」

「私、このキーホルダー大切にするね!」

 

佐伯くんのプレゼント。

あのコに回ったんだ。

キーホルダーかぁ。

好きな人から貰えれば、それは何でも一番大切なものになるものね。

大きいとか小さいとか。

高いとか安いとか。

全然関係なくなるもの。

あのコにとっては今日は最高のクリスマスになったんだ。

 

ね?

やっぱりわたしには佐伯くんに関して運がない。

それはこれから先も。

きっと変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーティーもお開き。

みんなと別れた後。

空を見上げながら、家へと帰る。

 

「雪……降りそう」

 

星が見えない。

でも今日はやたら冷えるから。

ホワイトクリスマスになるかもしれない。

ニットの手袋の上からはぁと息を吐き出し。

足早に帰ろうとする。

 

すると。

 

 

背後から、足音。

 

 

走っているのか。

それはどんどん近づいてくる。

 

や、やだ……痴漢!?

 

怖くて後ろを振り向けない。

その足音が本当にわたしの後ろで聞こえた時。

思いっきり走り出した。

そんなに足が速い方じゃないけど。

もう出来るだけ足を精一杯動かして。

 

と、思ったら。

いきなり腕を掴まれた。

 

「ぎ……!!」

 

叫ぼうとしたら。

口を塞がれる。

 

「バ、バカ! 騒ぐな!!」

 

聞き覚えのある声。

驚いて振り向けば。

 

「さ……!」

 

佐伯くん。

ビックリしすぎて固まる。

声も出ない。

 

「はぁ、はぁ……ったく、こんな時ばっか足が速いな」

 

両膝に両手を置いて息を切らしてる佐伯くん。

わたしもゆっくり息を吐いて落ち着こうとした。

どのくらい二人でそうしてたんだろう。

ようやく言葉を発する。

 

「どうして、佐伯くん……呼んでくれれば……ち、痴漢かと思ったよ」

「痴漢!? それはショックだな……つーか、こんな住宅街で叫べるか。 近所にモロ聞こえだ」

 

ここはそんな広くない道、車通りもそんなに多くない。

周りも家ばっか。

もう遅い時間だし。

ここで呼ばれたらすごく響きそう。

 

「女に捉まってて遅くなっちまった」

「で、でも……佐伯くん家ってこっちからじゃ遠くない?」

「ウルサイ。 さっき後でって言ったろ、おまえに用があったんだよ」

「わ、たしに……?」

 

佐伯くんは羽織ってるロングコートのポケットから。

小さな包みをわたしに差し出した。

 

「え……」

「その……プレゼントだ」

「え、ええ!? あ、あの……」

 

佐伯くんを覗き込むように見る。

“早くしろ”と言わんばかりにその包みを上下に揺らす。

それでもなかなか受け取らないわたしに苛ついてきたのか徐々に不機嫌になる佐伯くん。

ようやくその包みを手にして。

 

「でも……これ……」

「いいんだよ、貰っとけ」

「でも、でも佐伯くんからプレゼント貰ったって、あのコが……」

「あー、アレはアレ用。 コレはコレ用」

「コレ……? あ、いや、でも悪いよ……」

「あのな、せっかく俺が買ってやったんだ。 素直に喜べよ! いいか、これはな」

 

わたしの手の中から再度包みを奪い取り、その中身を出す。

中から出てきたものは、木製の青いのイルカ。

 

「あ、すごく可愛」

 

最後まで言葉を出す前に。

佐伯くんはそれをわたしの肩に当て。

思いっきり、押した。

 

「!!!!!」

「ここが肩こりのツボ……いや、血行促進だったっけか? 肩こりは……コッチか」

「い……いだだだだだだだだだだ!!!!!」

 

もう夜とか近所とか関係ない。

私は力の限り叫んだ。

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!」

 

何とか佐伯くんの手から逃れ、肩を押さえる。

 

「ツボ押し君だ。 コレいいだろ」

「ツ……ツボ……何だかおばあちゃんみた」

 

すかさず飛んでくるチョップ。

うえ〜……肩も痛いけど頭も痛い〜……。

それをもう一度受け取って。

 

「あと……サンキューな」

「え?」

「んじゃ、メリークリスマス。 またな」

 

佐伯くんはそのまま踵を返し、走って帰っていく。

何か……お礼言われるような事したっけ?

 

それにしても相変わらず強引で勝手だなぁ……。

残されたわたしは。

やはり手の中に残された包装紙と一緒のイルカを見た。

 

青い、イルカ。

佐伯くんからのプレゼント。

初めての、プレゼント。

なんだからしいな。

さっきまで握ってた体温がまだ残ってる気がする。

 

体温。

 

わたしの背と顔にも。

佐伯くんの体温を感じた。

その感触がまだ――。

 

そこで一気に。

顔に熱が帯びた。

 

や、やだ。

違う違う!

そんなんじゃないから!

落ち着いて、わたし!!

 

だってだって。

よく考えてみてよ。

 

 

確かにさっきみたいにいじめられるし。

嫌味も言われる。

バイトでもこき使われるし。

すぐチョップだって飛んでくる。

 

あの“キス”だって。

本当に事故なだけだし……。

 

 

でも。

わたし、佐伯くんに。

みんなの前で気を遣ってる佐伯くんに、せめてわたしの前だけでは休んでもらおうって。

決めたのは本当の事。

 

だから。

嫌いじゃない。

 

それは確か。

でも好きかどうかは。

それにはまだ結論が出ない。

 

だけど。

この距離感がいいのかな。

遠すぎず、近すぎず。

これ以上近づいたら。

この関係がなくなるかもしれない。

佐伯くん。

迷惑になっちゃうかもしれないもん。

このままの、“友達”のままがいいんだよね。

きっと。

 

 

 

それでも佐伯くんから貰ったプレゼント。

どんな意図があるのかなんてわたしには分からなかったけど。

それは単純に嬉しくて。

雪が降り始めた事にも気づかずそれを胸に抱き。

 

目を閉じて。

さっき言えなかった言葉を。

今度のバイトで改めて言う言葉を。

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

そういえば。

 

「わたしのプレゼント……誰に渡ったんだろう?」

 

 

 

 

 

その後、佐伯くんの別れ際のお礼の意味が分かる。

 

珊瑚礁のカウンターの後ろ。

お客さんの見えない所に。

 

ガラス細工の天使が。

ちょこんと置いてあるのに、気づいたから。

 

 

 

ほんの、ちょびっと。

ほんのちょびっとだけ。

 

今年のクリスマスは。

“奇跡”が起きたのかな――。

 

 

 

 

 
「don't dislike」
20101207



またもや1年以上も放置されてましたよ……ホント怒ってやって下さい……。
でも偶然にもクリスマス話で良かったです。
少し近づけるコトが出来ましたかね?こうなったらトントン拍子で行きたいです。←ホントにトントン拍子で更新してください( ̄△ ̄)










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