校舎裏に人がいないのをいいことに。
少し大きめの欠伸をする。
ああ、今日なんだか眠い。
原因は分かってる。
昨日バイトから帰ってきての宿題。
結局寝たのが1時すぎ。
日当りのいいこの校舎裏で少しだけお昼寝しようと、寝場所を探しにウロウロする。
あ、あの茂みの中よさそう。
あそこならきっと人が来ないし、外から見えないな。
裏門に近い学校の敷地内の一番角。
わたしの胸くらいまでの高さまである茂み。
その中に足を踏み入れた途端。
「ぎゃっ!」
わたしは何かにつまづき。
綺麗に顔面から転んでしまった。
「あーいたた……」
額と頬を擦り。
石か何かだったら横に退けようなんて思ってたら。
意外にも。
わたしの目に飛び込んだのは、人の足。
うちの学校の制服。
間違いなく、男子。
わ……先客だったんだ。
引っ掛かったであろうその足に思いっきり躓いたのに。
一向にその足は動かない。
わたしはそーっと起き上がってその足の持ち主を見る。
「さ……佐伯くん!?」
し、死んでるっ!?
でも佐伯くんのカラダは小さく上下して、小さな寝息も立てている。
佐伯くんはその芝生の上に大の字になって寝転がっていた。
あれ、今日は女のコと一緒じゃないんだ。
これはまた……熟睡、だなぁ。
この機会に一発チョップでもくれてやろうかな。
しかし。
よく寝てる。
こうしてみたら可愛いな。
いつもの佐伯くんじゃないみたいだ。
なんて思ってたら。
「………………んあ……?」
佐伯くんがうっすら目を開ける。
わたしもドキッとして。
「お、おはよう、佐伯くん!」
声が上ずってしまった。
ゆっくり起き上がる佐伯くんは。
半開きの目でわたしの顔をじっと見て。
「…………カピバラ……」
「ん?」
「カピバラが……いる…………」
わたしは佐伯くんが言ってる事がちっとも理解できず。
佐伯くんの目の前で手を振った。
「おーい、佐伯くーん……起きてる?」
「ココ……どこだ…………今、何時……」
完全に、寝ぼけてる。
佐伯くんって結構寝起きとか悪いんだ。
「ココは学校。 今はお昼休みだよ」
「…………学校……学校か…………」
「………………」
「学校……学校………………学校!?」
途端佐伯くんは目を見開いて周りを見る。
その行動にわたしの方がビックリする。
「な、なんでおまえココにいるんだよ?」
「だ、だってわたしお昼寝しようと…………」
その瞬間。
予鈴が鳴る。
「ヤバ……次、移動教室だ…………」
「そ、そうなんだ……」
「寝癖は平気だな?」
「う、うん……」
すぐさまチョップ。
「痛っ!!」
「はっきりしろ! カピバラ!」
「だ、大丈夫ですっ!」
「ぷっ……はは。 おまえ、ヘンなカオしてんな。
やっぱ似てる」
笑って。
佐伯くんは教室へと戻って行った。
うぇ〜……。
結局昼寝もできず。
佐伯くんにチョップもされ。
いいコトなかったな……。
そういえば。
佐伯くん何言ってたんだろ。
カピバラ?
家に帰って。
すぐにパソコンで調べたそれ。
『カピバラ――現生種最大のげっ歯類。 体長105cm〜135cm、体重70kgほどに成長』
画面の前でガックリと項垂れたわたし。
……佐伯くん。
“可愛い”は取り消しです。
もう決定。
取り消しの取り消しは絶対ないから。
ていうか。
げっ歯類ってネズミ?
ていうか。
すっごく大きいんですけど。
いや、すごく可愛いよ?
可愛いけど。
可愛いけどさ……。
でも絶対佐伯くんのは違うイミだ。
わたしは机の鏡を覗き込んで。
「……わたし…………ネズミに似てるってコト? もっとほかに例えはないの……?」
今日あんな無防備な姿を拝見しちゃったけど。
佐伯くんて。
やっぱりわたしの中では。
ナゾの人、そのままなんだと。
再認識した夜だった。
「afternoon nap」 |
20070601 |