卒業式から数日。
一流大学内。
校門をくぐり、受験者の合格発表の掲示板の前に立っていた。
「う〜……緊張する〜……」
「ちゃんと頑張ったろ? 自信持て」
「だってねだってね! 試験中も緊張しちゃってて……」
「……大丈夫だろ。 いずれにしてももう結果は出てるんだ」
ずっと下を向いててなかなか掲示板を見れなかった。
手に持つ受験票。
もう片方の手には。
「ほら、手貸せ」
「あ、ありがとう……」
隣に立つ。
愛しい人の手。
両方をぎゅっと握る。
「見……見てみる……ね」
「ああ」
結局この大学を受けなかった珪くん。
受かっても一緒には通えない。
落ちてる……方が、いいのかな……?
「50683……50683……」
呟きながら自分の番号を探す。
受験者が多くてなかなか見つからない。
途端、珪くんがわたしの手を引き。
人込みを抜け。
掲示板の一番前に立たせてくれた。
「け……?」
「ほら……あそこ」
顔を上げたちょうどそこに。
『50683』。
自分の受験票と何度も何度も交互に見て。
珪くんを見た。
「珪くん……珪くん!」
「ああ、おめでとう」
珪くんは笑ってわたしの肩を寄せ。
抱いてくれた。
本当に嬉しかった。
珪くんと話せなくなって。
逢えなくなってたから。
勉強にも試験にも集中できなくて。
本当に自信なかった。
でも。
「あ……」
「どうした?」
「でも珪くんとは……もう一緒にここへは……」
項垂れたその時。
「俺も通う」
「え?」
珪くんはジャケットの胸ポケットから自分の受験票を取り出し。
「51292……あそこ」
珪くんが指差したそこに。
受験票と同じ番号が書かれていた。
「え……? なんで……?」
珪くんは笑ってまたわたしの手を引き。
掲示板の前から退いた。
「俺こっちに帰ってきたの先月の20日頃で……それからずっと日本にいたんだ」
「うそ……」
「受験日は23日だったろ?
だから間に合った」
「でも学校には……」
「学校は……もう出席日数も足りてたからな。 氷室にも話して、もう行っても仕方ないと思ってたからずっとバイトしてた」
わたしがまだわからないような顔してたんだろう。
声を上げて珪くんは笑う。
「そんな顔するな。 俺と一緒で嬉しくないのか?」
「嬉しいよ! でも全然知らなかったから……」
「バイトしたり……おまえのリング作ってたり」
わたしは左手に填めてる指輪を見た。
すごく可愛い指輪。
わたしはこの先ずっと。
外さないでいるだろう。
クローバーの指輪。
「本当はクリスマスに渡す予定だったんだけど……デザインがなかなか決まらなくて間に合わなくて…………おまえとあんな風になってから作れなくなって……」
「………………」
「日本に帰ってきたら郵便受けに封筒があったから見たらクローバーだろ?
で、これくれたのおまえだって分かったんだ」
「名前書かなかったのに……?」
「ああ……あれ森林公園で見つけたもんだろ? 俺と一緒に行った時に。
だからきっとおまえがくれたんだなって」
珪くん……超能力者みたい。
なんでも分かっちゃうんだね。
「あの話もクローバーだったから……すぐにデザイン決めて……」
「珪くん……本当に嬉しい。 わたし一生大事にするね」
「………………俺」
「ん? なぁに?」
「父さんと母さんに一緒に暮らそうって話されたんだけど……日本に残るって言ったんだ。
そのかわり……」
「……?」
「おまえをいずれドイツへ連れてくって、話した」
「え……」
手を繋いで校門を出る。
「父さんも母さんもおまえに会いたがってる」
「珪くん……」
「いつか、連れてく」
今日一日ずっとにこにこしてる珪くん。
また見たかった、ずっと見たかった笑顔。
ほら、今だって。
今までに見たことのないような笑顔になってる。
珪くんも……嬉しい?
すごく嬉しいよ。
すごく幸せだよ。
「今日は“ALUCARD”行くか。
久しぶりだろ」
「うん、そうだね」
珪くんがもうここには来ないとわかって辞めたアルバイト。
でもこれからは珪くんとの時間はずっと増えてく。
ずっと離したくないこの右手。
ずっと。
ずっと繋いだままでいられるよね……?
「smile again」 |
20110727 |