「よしっ! これで最後!! お待たせ、珪くん!」

 

珪くん家のリビングのソファで前屈みになってテーブルの上を見つめていた珪くん。

わたしの声に笑顔で振り向いてくれる。

 

「終わったか? 早く座れよ」

 

キッチンから最後の熱い料理を運んで。

テーブルの端に置く。

エプロンとミトンを傍らに置き。

 

「ふふ、あと5分だね。 ごめんね、ギリギリになっちゃって」

「いや、構わないから」

 

真っ暗な部屋。

テーブルいっぱいに敷かれた料理。

その真ん中にはケーキ。

灯されたローソクと共に。

暖かい光は部屋をほんのり照らす。

その中にいる珪くんをも。

彼の彫りの深い顔には綺麗な影が落とされている。

じっとテーブルの上を見てる。

――無言のわたしたち。

なんだか緊張しちゃうな……。

恥ずかしくて珪くんの顔が見れない。

 

「……初めてかもな」

「え?」

 

珪くんが沈黙を破った。

 

「俺……中学までこの日の記憶あまりないんだ」

「珪くん……」

「親は何かしらは買ってくれてた。 たぶん子供の頃は一緒に祝ってくれたりしてたと思う。 でも気づいたら親はもう海外に行きっぱなしになってて……そこから何か送ってくれたりしてくれてた……でもそれは俺の欲しいものじゃなかったんだ。 俺の欲しかったものは」

 

言葉を切った珪くんは。

手を伸ばしわたしの髪を梳いた。

 

「俺、今日の日、忘れない。 こんなにおまえが作った料理があって、こうして……ここにおまえがいてくれて」

 

わたしを見てビリジアンの瞳はふわりと優しく微笑んでくれた。

 

「……今日だけ?」

 

少し驚いた珪くん。

すぐに戻って。

 

「毎年……祝ってくれるのか?」

「もちろんだよ! わたしずっとずーっと祝うよ! だってこの日は珪くんにとっての特別な日なんだから」

 

わたしは立ち上がって電話の受話器を取り。

3つのボタンを押してスピーカーホンにした。

 

『午後11時58分40秒をお知らせします……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ポーン……』

 

「ほらほら、あと1分くらいだよ」

「だな」

 

もうちょっと。

もうちょっと。

本当はちゃんと珪くんの生まれた時間にお祝いしたかったの。

でも珪くん知らないっていうから。

だったら日の変わるこの時間に。

一緒に。

傍にいて。

お祝いしたかった。

 

「ドキドキするねぇ!」

「……おまえがドキドキしてどうするんだ」

 

んもう、こんな時までそんなクールな顔しちゃって。

わたしの大好きな珪くんらしいんだけどね。

 

『午後11時59分50秒をお知らせします……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ポーン……』

 

「うわっ、あと10秒! カウントダウンしよ!」

 

珪くんのわたしを見つめる瞳はちょっと呆れたような感じがしなかったでもないけど。

わたしはこの時間を大事にしたいんだもん。

大事に、迎えたいんだもん。

 

『午前0時ちょうどをお知らせします』

 

「ごー!」

 

「よーん!」

 

「さーん!」

 

「にー!」

 

「いー……うわっ」

 

最後の“いち”の“ち”が言い終わらないうちに。

急に肩を抱かれ。

目の前にはふたつの綺麗な碧が。

 

『ポーン』

 

時報に合わせて。

珪くんの形のいい唇が。

わたしの唇に。

降ってきた。

ビックリしたわたしは何度も瞬きして。

珪くんの濃い睫毛を見ていた。

それは温かくて。

優しくて。

眩暈のするような。

夢の中にいるような。

そんな口づけ。

角度を変えて。

何度も唇を重ねてるのに。

一生忘れられないような。

甘い、甘い口づけ……。

 

「ほら、俺に言う事は?」

 

唇が離れて。

珪くんがわたしに問う。

 

「あ……あの、おめでと……」

「ちゃんと」

 

にっこり笑う彼。

 

「珪くん、お誕生日……おめでとう……」

「付き合い始めて、初めての誕生日だからな。 嬉しい、俺」

 

子供っぽいからいいと言ってたケーキのローソク。

それに静かに息を吹きかける。

真っ暗になる部屋。

また肩を抱かれ。

押し倒され。

スカートの中に静かに手が入り。

耳元で囁かれた。

 

「このまま……」

「いっ、いいいいいいやっっ! た、たた食べよう! ね、お料理冷めちゃう!!」

 

珪くんはわたしを離して電気をつけた。

肩を揺らして笑ってる。

真っ赤になったわたしは別のイミで真っ赤になる。

 

「もう! そんなに笑わないの!」

「悪い、分かった」

 

まだ笑いが止まらないみたい。

ちょっと拗ねてみたけど。

今日は、特別な日なんだから。

珪くんにサラダを分けてあげた。

特別な日だから。

今日はカイワレくん抜きのサラダ。

 

「……高校に入ってからはちゃんと覚えてる」

「え?」

「誕生日。 俺が覚えてなくても、おまえが覚えててくれるから……ああ、今日は誕生日なんだなって」

「へへへ」

「だから、これからも俺が忘れないように祝ってくれるか」

 

大きく頷いた。

 

これからも。

何年後も。

何十年後も。

 

わたし珪くんを祝ってあげるよ。

珪くんの誕生日はわたしの誕生日と同じくらい。

とってもとっても大事な日なんだからね。

 

一生一緒に祝える事ができたら……どんなに素晴らしいだろうね。

ねぇ、珪くん。

 

 

 

 

「especially for you」
20051016



恋人創作は初ですね。高校卒業したら描くつもりだったのに。
そしてちゃんと?したキスも創作も初めてッスね。
どっちにしても玉砕に変わりありません( ̄・・ ̄)
甘々になってればいいなぁ。
つーか、これアップ前日に即席で書きました。あまりにも王子久しぶりすぎて口調がわからなくなってた(汗)おかしかったら言ってくださいね(笑)










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