実際、そんな興味なんてあらへんかった。
地味な娘やな、と思とった。
周りが騒ぐほどでもないやんと。
正直、俺の好みでも何でもなかったんやから。
でも、この前廊下でぶつかってきた時。
「きゃ」
尻餅をついて俺を見てたんや。
申し訳なさそうな顔して。
「ご、ごめんなさい!!」
瞳が大きくて、髪もさらさらしてて、吸い付きたくなるような唇をしてて。
俺は思わず、手を引っ張り声をかけてしもた。
「あ、ああ……スマン、俺も悪かったで。 平気か?」
びっくりして俺を見とる。
ああ、関西弁だからやな……。
「夏野ちゃん、言うんやろ? 俺、姫条まどか」
「え? あ、ああ……うん、ヨロシクね」
戸惑ってはいたけれど。
笑顔のかわいい娘やった。
「どうして、わたしの名前……」
「自分、ウワサになってんで。 かわいい娘やってなぁ」
「え……?」
「俺、女みたいな名前やけど、女やないし。 せやからヨロシク」
「えへへ、ヨロシクね」
笑って手を振って自分の教室へ帰ってった。
それから、その娘の事が気になりだしてきて。
せやけどなぁ……。
夏野ちゃん、あいつと仲ええんよな……。
葉月と。
よく一緒にいるとこ見るんやけど……。
見れば夏野ちゃんも満更でもなさそうやし。
あの葉月も仏頂面で有名なヤツやのに、夏野ちゃんといる時だけは笑顔なんか見せよって。
ホンマ腹立つ。
いや、この姫条まどか。
自分のプライドに賭けてフラれるわけにはいかん!
俺が夏野ちゃんと!!
そう思とったんやけど……。
やっぱあの二人を見とると、お似合いなんかなー……と認識させられるわ……。
ああ、なんか俺らしくないわ……。
こんなの初めてやもんな……。
今までは女の方から俺に近寄ったりしてきて、俺もそれはそれで楽しかったんやけど。
今度は……ちゃうんや。
全然ちゃう。
他の女と全然ちゃうわ。
あーあ……。
俺が屋上で空に向かって大きい溜息なんかついたりしてると。
あのこうるさい女が俺の傍に寄ってきた。
「まーどかっ。 何溜息なんかついてんの? キモチ悪っ!!」
「なんや、おまえか……ってまどか言うなっ!!」
隣に座り、俺の顔を覗き込む。
「何? 悩みでもあんの? この奈津実ねーさんに相談してみなさいよ」
「うるさいっ。 ジブンに相談することなんかあらへん」
「ははーん……」
藤井は薄目で人を見て笑っている。
「な、なんやねん。 キショク悪い女やな」
「夏野の事かなー……」
一瞬ギクッとする俺に藤井は当たり!と指をならした。
俺は藤井を睨む。
「夏野ね……あの娘ホント人気あんのよねー。 本人自覚ないんだけど、アタシが見ても結構なオトコが夏野狙ってるもん」
俺は項垂れた。
やっぱそうなんや……。
ライバル多そうやもんなあ……。
「好きなオトコおるんかな……? ジブン、知っとるやろ」
「ふっふっふ、それはナイショ」
「何やねん、それ」
「ま、せーぜー頑張ってみたら?」
「……うるさい、ボケッ」
俺は多分フラれると思うねんけど……。
あの娘の笑顔を見てると何や、つい自分も微笑んでしまう。
今までの自分がアホくさく見えてくる。
純粋な娘なんやな。
その純粋な娘の笑顔を絶やさないでいられるオトコは。
きっとそれが出来るオトコはあいつしかおらんのかもしれん。
けど、あいつにそれが出来んようであれば、俺が夏野ちゃん貰うで。
覚悟しとけよ。
なあ、葉月。
「she love…」 |
20040913 |