「はぁ……」

「おい……お前それ何度目の溜息だ?」

「……数えてない〜……」

「…………数えなくていい」

 

がっくり肩を落としてアイスティーを一口飲む。

今日は2年生最後の期末テスト最終日。

珪くんとALUCARDに寄って問題用紙を開き、答え合わせをしていた。

 

「大丈夫だ。 このくらいじゃ十分80点以上は取れる」

「でもぉ〜……ちゃんと勉強したのに……」

「お前はそそっかしいからな、イージーミスが多すぎだ。 落ち着いてやればお前の学力じゃ全然解ける」

「はぁ……特に数学……氷室先生にしぼられるなぁ……」

 

答案用紙をしまいモカに口をつける珪くん。

 

「俺が言うんだ。 大丈夫」

「ん〜〜……珪くんが言うなら……大丈夫かな」

「ああ、自信持て。 今日は奢ってやるから」

 

割り勘でよかったのに珪くんが支払いをしてくれて、店を出た。

珪くんに迷惑かけちゃった。

珪くんが折角励ましてくれてたのに、わたし落ち込んでばっかだったから。

別れ際も「大丈夫だから」を頭を優しく小突かれて、珪くんは帰っていった。

ごめんね? 珪くん。

確かに自信はあったの。

手ごたえもあったつもりでいたんだけど。

ちゃんと勉強もしたんだから。

でも、珪くんと答え合わせをしていて。

自分の答えとどうも違うような気がして不安だらけになっちゃって。

夕ご飯も朝ご飯もあまり食べる気にならなかった。

次の日重い足取りで学校に向かうわたし。

昇降口に人が集まっていた。

そこはいつも順位が張り出される場所。

うぅ……あんまり見たくないよぉ……。

人が集まりすぎて順位がよく見えない。

そんなに目は悪くはないけど……こうも人が多くて前に進めないと……。

その場で跳ねてみるけどやっぱり見えない……当然よね。

小さい自分が恨めしい……。

 

「どうした?」

 

振り向くと珪くんがいた。

 

「おはよう」

「ああ、おはよう」

「それが……順位見たいんだけど見えなくて……」

「気になるか?」

「え? まあ……それなりに……」

「……なら手伝ってやる」

「はい?」

 

途端腰に珪くんの腕が絡み、瞬間わたしは宙に浮いた。

 

「け……け、け、け、け!!」

「どうだ? 見えるか?」

「や……やだやだやだやだ! 下ろして!! お願いっ!!」

 

脚をバタバタして何とか抵抗する。

すぐに珪くんはわたしを下ろしてくれたけど。

わたしはビックリして、心臓の鼓動も早くなって……このまま死んでしまうかと思った。

 

「だ、誰か! 誰か見てたらどうすんのっ!!」

「別に……」

「わっ、わたし重いから……」

「いや、全然……冗談だから」

 

一番後ろにいた事が不幸中の幸いだった。

珪くんは真っ赤なわたしの顔がおかしかったのだろう。

肩を揺すって笑っていた。

でもわたしは。

珪くんがわたしの腰に腕を、というのでも恥ずかしかったのに。

持ち上げてくれた方が何倍も恥ずかしかった。

軽々じゃないとは思うけど持ち上げてくれたトコはやっぱり男の子なんだと。

ちょっぴり頼もしくて。

しばらく珪くんの顔が見れなかった。

抱き上げられたのなんて小学生以来だ。

お父さんに肩車してはしゃいだものだった。

珪くんに抱えられた時。

視線が高くてびっくりした。

珪くんはこんな高さで見てるんだ。

すごいなぁ……。

 

「なんだ、見たいのか」

「う……うん」

 

珪くんはわたしの手を引き、その人込みに入っていった。

無理矢理人垣をこじ開け、張り出されてる紙の前に立った。

ドキドキしながら1位から見ていく。

徐々に見ていくと……途中見慣れた名前がある。

 

9位 樋渡夏野   463点』

 

「よかったな、お前」

 

珪くんに頭を撫でられる。

初めて見る順位。

嬉しくて珪くんの腕を掴んでしまった。

 

「い、いいのかな?」

「バカ。 いいに決まってるだろ。 な、だから言ったろ?」

「うん! 珪くん、ホントにありがとう!!」

 

笑う珪くん。

すごく嬉しかった。

初めての順位。

本当に安心しちゃった。

珪くんの言う通りだね。

ありがとう。

そして珪くんの順位を見ると。

わたしの名前を探す間にはなかったような気がした。

1位は守村くんだった。

そして3位は志穂ちゃん。

それ以降わたしの名前まで珪くんの名前はなかった。

これって……全員の名前張り出されるよね……?

 

「あ、あれ……?」

「………………」

 

ようやく探した時には。

 

83位……?」

「そう、83位」

 

彼はさして驚いてもいなかった。

 

「も、もしかして………………」

「ああ、寝てた」

「寝……」

「眠かったから寝てた」

 

珪くんはやっぱり大物だ。

こんな大事な試験でも寝ちゃうだなんて。

一体珪くんの睡魔ってどんなんだろう。

 

「補習、だな」

「珪くんってば……」

 

さっきまでとは違う溜息が漏れた。

その場を離れ、わたし達は教室へと向かう。

 

「もうダメだよ? 寝ちゃったら。 もう3年だよ?」

「………………何とか頑張ります」

 

珪くんは軽く口を尖らせた。

こういう所はホント子供みたい。

拗ねた子供。

そんな珪くんがカバンから何かを取り出した。

 

「これ、やる」

「え?」

「テスト頑張ったご褒美」

「ウソ!?」

「……ホワイトデーも兼ねてる。 本当に美味かった、チョコ。 サンキューな」

 

再度頭を撫でてくれた。

わたし、珪くんからのプレゼント、全部大事に持ってる。

だからこれもわたしの宝物になることは間違いない。

 

「う、嬉しい……」

「バカ、泣くなよ。 まだ上があるだろ?」

「それもだけど……これも」

「だから……泣くことじゃない」

 

でも。

珪くん知らないね。

こうして頭を撫でてくれるだけでも。

できない事もできちゃう気になってくる。

珪くんってやっぱりすごい人なんだ。

わたし珪くんにそう撫でられるのならなんでもできそうな気がする。

だからこれからもずっと力をもらえるように……一緒にいられるかな。

もう3年。 最後の年。

わたしもそろそろ勇気出さなきゃ。

 

「じゃあね、春休みどっか行こっか」

「ん?」

「ご褒美返し! 珪くんが補習頑張ったらデートしようね!」

 

少し考えて珪くんは。

 

「あれって確か……補習って一週間ずっと続くんだったよな?」

「?」

 

珪くんは不敵な笑みでわたしを見た。

 

「……わかった。 一日で終わらせてやる。 だから今度ビリヤード付き合え」

 

 

補習一日で終わらそうなんて絶対ムリなのにこういう時の珪くんはできない事もやってしまうような。

雰囲気があったり……。

 

 

 

 

 
「prize」
20050526



な、なんだかよく分かんねぇなぁ、おい(笑)
テスト話です。王子はやっぱよく寝てるという話。










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