「珪くん、途中まで一緒に帰ろっか」
「ああ……いいよ」
今年は雪こそは降らないけれど、空気は痛いほどに冷たくて。
二人でコートを羽織り、静かな住宅街をぬって歩く。
さっきまでの喧騒が嘘のよう。
「んんん〜〜、今年は珪くんのプレゼント当たらなかった……寂しい……」
「あれだけの人数だからな、当たるほうがすごいと思う」
「でも、今年は珪くんちゃんと時間通りに来たし、受付にもちゃんとプレゼント渡したから当たるかなぁと」
「……どういう自信だよ」
「せっかく珪くんが好きそうなモノ買ってきたのになぁ。 私の三原くんに回ったみたい」
「おまえ……鈴鹿のが回ってきたんだろ?」
「あ、そうなんだよ」
夏野が鈴鹿と楽しそうに話してるのを聞いていた。
心底嬉しい顔なんかして「ありがとう」と。
ちりちりとした胸を何とか押しとどめて。
でも。
こうして二人で帰れるのなら帳消しにしといてやる。
「珪くんは?」
「さぁな……守村にくれた」
「ひっどーい! せっかくプレゼント回ってきたのに」
「俺は……ひとつしかいらない」
「え?」
何でもない、と空を仰いだ。
おまえがくれたモノ以外何もいらないんだよ。
見上げた空は、空気が澄んでて星が散りばめられたように瞬く。
寒いのは嫌いだけど、こういうのは好きだ。
夏野も同時に見ていたようで。
「星、キレイだね」
「ああ」
「知ってた? あれカシオペヤでしょ。 であっちがオリオンで……」
言葉と共に白い息を吐き出しながら頬を上気して語る夏野。
ホワイトクリスマスにはならなかったけど。
雪の代わりに見る星もまたいいもんだなと目を細めた。
空気の澄む冬の夜空は。
よく星が綺麗に見える気がする。
夏野の家まで送って玄関先で別れる。
「ね、来年もクリスマス楽しみにしてるね」
「そうだな」
「じゃあ、送ってくれてありがとう」
門扉に手をかけ中に入ろうとする夏野を止めた。
「え?」
「初詣、今度も一緒に行くか?」
「ホント? いいの?」
「ああ、他に誰とも行く気ないし」
「行く行くっ!! じゃあまた連絡するね!」
手を振る夏野とそこで別れ、俺は家に戻ろうとした。
静かなそこは自分の足音だけが怖いくらいに響く。
見慣れた景色を横目に家に戻ろうとして俺は家の方に曲がる角を曲がらず。
そのまま臨海公園へ来ていた。
昔よく来ていたここ。
俺が夜中に目が覚めてこの世に誰もいなくなったんじゃないかと錯覚に陥るたびに来ていた。
ここへ来ては街の灯りに安心して眠りについたものだった。
今も……その時と同じ気持ちなのかもしれない。
寂しい、と。
一人が嫌とかじゃない。
ただ……離れたくなかっただけなんだ。
周りに誰もいない。
観覧車の見えるベンチに座る。
ひんやりと冷えたそれは俺の今の気持ちすら表してるのかもしれない。
遠くに見える街を見る。
時計を見れば12時15分前。
それでも今日はクリスマスという事もあってまだ灯りの数は少なくない。
あの中に……あいつもいたりする。
探しても探しても見つからなかった昔とは違う。
それだけで救われるような気がする。
「おやすみ」
それだけ呟くと俺は席を立って今度は家に帰ろうとした。
今日はお前以上に俺のほうが残念だったと思う。
本当はプレゼント回ってくるの期待してた。
到底ムリな話なのはわかってるけど、それでも。
臨海公園を後にしようと歩いていると、進行方向に向かって俺の足元に長い影ができた。
背中に光が当たってる……?
振り返り見れば。
観覧車がクリスマスツリーのイルミネーションを放っていた。
色とりどりのライトでツリーをかたどっていた。
長くここに住んでいるけど。
知らなかった。
その観覧車に目を奪われた。
俺はコートのポケットに入ってる携帯を取り出して、履歴ボタンを押した。
あいつの名前が出て、発信しようとする。
が、思い止まった。
もう寝てるかもしれない。
でも、それは5分くらいの出来事ですぐに暗闇に覆われる。
……来年………………。
来年も……もしかしたら……。
なら……来年はあいつも連れてこよう。
喜んでくれれば……俺も嬉しい。
驚いてくれるだろうか?
これはお前に教えてやらない。
連れてきてやるから。
だから。
来年はもう少し……俺と一緒にいろよ。
「lighting tree」 |
20050417 |