放課後、夏野の隣のクラスの窓際の席。
友人の志穂にノートを借りている奈津実の姿があった。
写していても志穂に『行が抜けてる』と指摘されていたりする。
「あ〜あ、ホントヒムロッチ許せな〜い! もうなんでこんなに課題出すわけ〜!?」
「先生の教え方、すごくわかりやすいわ……ちゃんと聞いてないからよ」
「志穂はアタマいいからいいの! 奈津実サンはチア部とバイトで忙しいんだから! ……あれ? 夏野だ」
奈津実に言われて志穂は外を見る。
夏野が掃除も終え、下校途中だった。
勿論こちらには気付いていない。
見れば、夏野はそれに気付いたようで走って駆け寄る。
そこには長身の男が歩いているところだった。
「見てよ、志穂。 アイツのあんな顔見たことある?」
夏野は一人で帰っていた葉月を引きとめ、何か話していた。
ふと葉月はちょっとした笑顔になり、二人で校門に向かう。
「知ってた? あのコの夏休み。 花火大会、海水浴、遊園地……全部葉月とだって」
「そう」
「信じられる? あの葉月がだよ? ホント信じられない! アタシが話しかけるとウザいくらいの顔しちゃってさ〜」
奈津実は口を尖らせる。
「ま、アタシの好みじゃないからいいけど。 でも夏野ってすごくない?」
「……?」
「あの無表情男をデートに誘って、あんな笑顔にさせるんだよ! しかも夏野にしか笑わないし。 ホントあのコたちラブラブなんじゃん」
「樋渡さんのいいところよね」
そう言って。
奈津実の顔が少し曇る。
親友をとられたような気がして。
夏野がどこか遠くへ行くような気がして。
志穂がそれを悟ったのか、口を開く。
「奈津実も頑張ればいいじゃないの、いい感じなんじゃないの? ほら、あの……」
慌てて奈津実は否定する。
「ち、違うって! そんなんじゃないもん!! そんなことより志穂だって……」
志穂は珍しく顔を赤らめて反撃する。
「私はそんな………………ほら、早くしないと部活遅れるわよ」
しまった、と奈津実は止めていたシャーペンを走らせる。
もう二人の姿は学校外に消えていた。
「でもさ、憎めないいいコだよね。 あのコたちくっつくといいな」
「そうね、私もそう思うわ……ほら、奈津実また間違えてる」
「ああん、もう分かってるよ!」
初秋の放課後。
夏野は今日も葉月と下校する。
お互いが自分の気持ちに嘘がつけなくなる未来までそう遠くはない。
「friends」 |
20040503 |