ゴールデンウィークの最後の休日。
葉月は森林公園にいた。
夏野から、デートの誘いがあった。
が、初めて誘われたわけではない。
何回かデートに誘われていたのだが、葉月はずっと拒み続けていた。
自分のことを憶えていてくれなかったことに腹が立っているのか。
今更どう接すればいいのか分からなくて戸惑っているのか。
理由は何にせよ葉月は多少夏野との距離を置きたかった。
だが、4月のみどりの日。
携帯からいつものように夏野からの電話があって。
やはりデートの誘いだった。
「……やめとく」
――俺に、これ以上関わるな……。
そう言った後の夏野はいつも。
「……そっか、仕方ないよね……」
いつも残念そうな声で。
でも今回は本当に寂しそうで。
何回も断られてるせいか。
ゴールデンウィークの最後の休みの日だからか。
いつにも増してせつなそうで。
「じゃあ……」
「待てよ」
電話を切ろうとした夏野を葉月は制した。
「……やっぱり、行く」
その後の夏野の嬉しそうな声が何度も頭にこだまして。
そのまま現在に至る葉月は今、待ち合わせをしている最中だった。
公園の入り口で待ち合わせ。
ただ、今葉月がいるところは正確には公園入り口の、少し離れた場所にいる。
近くにあった柵に腰をかけていた。
――本当に、来るのか……?
……何でおまえは俺を誘うんだ?
興味本位で俺を誘うのか?
見世物でもなんでもない。
今までの奴等と同じじゃないのか?
そんな考えが葉月の頭を支配していた。
――俺は、変わった……。 おまえも……変わったんじゃないのか……?
足元にあった小石を端から蹴りながら、入り口の方を見やると彼女が慌てて走ってきた。
白のシャツに水色のスカートを翻しながら。
葉月は隠れたつもりではなかったのだが、近くの電信柱に身を潜めた。
「はぁ、はぁ……よ、よかった……まだ来てなかった……」
時計を見ると、待ち合わせの時間丁度だった。
ギリギリセーフで間に合ったらしい。
夏野は、まだ息が落ち着かない様子であったが葉月が来ていないか、道路の左右を確認していた。
「……まだかな」
楽しくてしょうがない、とても待ち遠しいような子供の顔つき。
――おまえも、そうなんだろ……?
葉月はどうしても、夏野の前に姿を現すことが出来なかった。
1時間くらいしただろうか。
このまま帰ってしまおうか、と腰をあげようとした葉月は何気に彼女の顔を見た。
「葉月くん……遅いな。 今日だよね……? 約束の日……。 もしかして事故かな……」
先ほどまで笑みが占めていた顔が一気に曇る。
「……わたし、ちょっと強引すぎたかな……いや、だったかも……」
少し泣きそうになる夏野。
その顔に葉月はいてもたってもいられなくなり、立ち上がって葉月は彼女に近づいた。
「悪い……待たせたか……?」
「は、葉月くん!!」
先程の表情とはうって変わって葉月を見るなり、ぱあっと顔中に笑顔が広がり、夏野は彼を迎えた。
「へへへ、わたしも今きたとこなんだ」
――おまえ……だいぶ待ったじゃないか……。 俺は、おまえを待ちぼうけさせようとしたんだぞ……?
何で約束もろくに守れない男に笑ってくれるんだ……?
「ね、あっちに芝生があるんだよね? 行ってみよう! この時期だからすごく綺麗なんだろうなぁ」
俺の2、3歩前を歩く夏野に葉月は問う。
「なぁ……何でそんなに楽しそうなんだ? おまえ……」
夏野はきょとんとして歩きながら葉月を振り返った。
「? だって葉月くんだからだよ。 当たり前じゃない!」
葉月は驚愕し、なおも続けた。
「……俺がモデルだからか……?」
「え……?」
夏野は立ち止まらなかった。
「ああ、葉月くんモデルしてるみたいだね。 え? でもこのデートと関係ないよね?
わたし今モデルしてる葉月くんとデートしてるわけじゃないもの」
鼻歌交じりに夏野が言う。
変わってなかった。
葉月は思う。
――もしかしたら、いつか俺はこいつに……。
そこで考えを止め、後姿の夏野を見た……。
「first date」 |
20040315 |