シーズン中のはばたき山までとは行かないが。
秋の森林公園もそれなりに木々の色が黄色く移り変わる。
葉月は公園の入り口まで歩く。
見れば今日一日葉月と過ごす夏野がすでに来ていて。
手には大きな荷物を持っていた。
「……悪い、待たせた……」
「あ、葉月くん! おはよう! ……あ、今11時半だね、こんにちわかな?」
「ああ……」
「ね、ね、聞いて聞いて、葉月くん」
「……?」
葉月は不思議な顔をして、自分の鞄から何か出している夏野を見る。
夏野は、じゃん!と少し大きめな包みを葉月の前に差し出す。
何か四角いものが包まれていた。
「今日は夏野ちゃん特製秋の味覚満載お弁当を持参しました! ね、あっち行って食べよう!」
有無を言わさず夏野に連れられる。
目の前にいる夏野は小さくまとめた髪にそこに入らない少し短めなサイドの髪を揺らしながら、自分といる時いつも楽しそうで。
適当な木陰を選んで、二人で座る。
上を見上げれば、木漏れ日が瞳に差し込み、葉月は目を細めた。
9月半ばだが。
まだ少し暑さが残っている為か木陰にいても特別寒さは感じない。
そんなことを思っていると、夏野は手際よく弁当を並べていた。
「今日のデートね、約束の時間がお昼近かったからね、ちょっと早起きして作ったんだ」
葉月は少し驚く。
「……おまえが全部作ったのか?」
「? そうだよ」
見れば、本当に秋の味覚満載で。
旬の野菜もふんだんに使っていて。
また2人分だとは思えないほど、沢山の弁当が並んでいた。
「ちょっと頑張りすぎて多く作っちゃったけど」
舌を出して夏野はおどける。
一つ弁当を差し出して。
「これ、葉月くんのお弁当。 ……でも口に合うかなぁ……? わたしの好みで作っちゃったし」
「……いや、平気……」
受け取る弁当を見ると、さすがに見栄えもよく色とりどりのおかずが並んでいる。
本当に美味しそうだった。
1つ以外。
葉月は見逃さない。
取り敢えずそれを退けて他のおかずに手を出す。
少し夏野を一瞥し口に入れた。
夏野は始終葉月の顔をうかがっている。
「ど、どうかな……?」
「………………」
「ま、ずいかな……?」
「…………いや、美味い」
怪しい雲行きだった夏野の顔はぱっと輝き。
「ホント? ねえホント!?」
「ああ……」
それは本当のことだった。
本当に美味しくて、何年かぶりに味わったようだった。
濃くもなく薄くもなく、葉月の好きな味だった。
「それ」以外は。
が、いつもなら鈍な夏野もこの時だけは敏感で。
「あれ……? 葉月くん、カイワレ食べないの……?」
「………………」
「ダメだよ、食べなきゃ! 身体にいいんだから」
「……いらない、おまえにやる……」
もう!と夏野はぷうっと頬が膨らます。
葉月は箸を止め、夏野を見る。
夏野は口を尖らせたまま、少し残念そうな顔をして。
「……どうした?」
「だって、カイワレ君が可哀想だなって……」
「………………カイワレ君?」
「そうだよ、葉月くんに食べてもらいたくてすくすく育ったのに……カイワレ君……」
葉月は諦めたように大きな溜息をつく。
「…………食べる」
「ホント!?」
仕方なくカイワレを食べてみる。
やっぱり自分の舌には馴染まなくて。
でも。
夏野の嬉しそうな顔を見るのは嫌ではなくて。
自分が食べなくて悲しそうな顔されるのはもっと嫌なわけで。
何とか他のおかずと味を紛らわせるように平らげた。
……カイワレの味が濃いときには、鼻で息をしないで。
その後は。
2人で全ての弁当を食べつくし。
2人で陽気もいいからと寝転がって。
葉月は隣で目を瞑る夏野を見、静かに目を閉じて深い眠りにつきながらある決意をする。
後日。
再び夏野が電話をすると、少し声色が柔らかくなったようで。
また、待ち合わせで夏野が待たされることもなくなったとか。
「fall」 |
20040503 |