4月2週目の日曜日。
窓を開けると、遠くに水平線が見える。
高台にあるこの家は海まで見渡せる。
はばたきタワーも今頃盛況なんだろう。
寝起きにこんな清々しい景色を見るのは悪くないもんだ。
でも決していいとは言えない寝相に首が少し痛くて顔をしかめる。
ベッドのシーツを直して携帯を開く。
11時4分。
昨日夢中になりすぎて寝たのが3時すぎだったから……ちょうどいい時間だ。
俺が携帯で時間を確認するのは口実で。
本当は。
着信があったかもしれないという確認だった。
以前の自分ではとても考えられない。
携帯を開くだなんて、それを持ってる時に着信があれば電話に出る程度で。
持ち歩かない方が多かった。
本当に無用の産物だった。
ただ事務所がいつでも連絡がつくようにと無理矢理持たされたまでで。
けど俺が忘れる事が多いから、事務所も半ば諦めてたな。
でも。
でも今の俺は。
……待ってるのかもしれない。
着信を。
誰からの電話でもない、あいつからの電話。
俺は開けた窓からベランダに出る。
今日は目が痛いくらい綺麗な青空をしてて。
かすかに海からの風が頬を撫でる。
落ち着いてないな、俺。
いつ電話が来るんだろういつ電話が来るんだろう、と。
心待ちにしてる自分がいる。
……かけてみようか。
今まで。
いつもならそこで悩む俺がいた。
もうこれ以上は、と制すもう一人の俺がいた。
これ以上あいつに関わらない方がいいと。
これ以上あいつにハマらない方がいいと。
こんな俺を知らないで欲しいから。
あんな俺を思い出さないで欲しいから。
知ってた。
これは矛盾だと。
あいつに近づきたいのに、突き放そうともした。
断る勇気もない、誘う勇気もない意気地なし。
矛盾……ただ単に我侭だったのかもな、俺……。
でも、もうよそうと決めた。
悩んでもしょうがない。
俺がおまえに対する気持ちに偽りはないから。
……こればっかりはどうにもならないから。
自分の気持ちに気付いた事は否定はできない。
………………いや、違う。
俺は気付いてないフリをしていた。
ガキの頃からずっと……ずっと変わらない気持ちだったんだ。
ずっと……海外へ行っても、はばたきに戻ってきても。
探してたはずなのに。
一人の事しか想ってなかったはずなのに。
そんな俺のせいにして、あんなあいつのせいにして。
気付かないフリをしていたんだ。
もう一度携帯を開き、再度着信がなかったことを確認して手の中に収める。
どこへ誘おうかと遥か遠くの海を見ながら考えてた時。
着信音が鳴り響いた。
俺は心臓が縮む気がして携帯を手に取る。
名前が表示され少し顔が綻んだような気がした。
やっぱり俺おかしい。
声が聴ける。
たったこれだけの事が嬉しいだなんて。
しばらく鳴らして電話に出た。
「もしもし?……ああ、おはよう…………今日か? 水族館久しく行ってないな……ああ、いいよ………………分かった。
あ、帰り森林公園に寄らないか?……そう、こないだも行ったけど、やっぱ見飽きないから……俺、好きなんだ。
知ってるか? 夜ライトアップされるんだ。 ああ、綺麗だよ………………了解、じゃ昼に駅で」
断れないのに……どうせ断れないんだから。
行く気があるんなら……ならちゃんと誘えよ。
俺を後押しする声。
俺は少し苦笑いしながら階下に降りて洗面所へ向かう。
俺から誘わないであいつにほんの少し……謝罪しながら。
カレンダーを見て次の休みどこへ行こうかと考えていた。
「coward」 |
20050127 |