俺は正直迷っていた。
空を仰いだり、街路樹を恨めしそうに見ながら、俺は商店街に入っていく。
様々な店が立ち並ぶ中、俺は決まった何かを求めようともせず、ただ歩いていく。
ひとつ見つけた雑貨屋。
欲しいものが見つかるかもしれないその店に俺は入る。
見渡せば女用の小物ばかりで。
客も男なんか俺しかいない。
早々に店を出た。
次第に周りが俺を見て何か囁く。
……俺は見世物じゃない……。
早く用を済ませようと、ふと本屋の前に立ち寄る。
ここなら男も女もいるし、本を読んでて俺に気付かないかもしれない。
ぶらっと店内を歩き回る。
何を探すわけでもない……俺には分からないから。
ちょうど動物の本コーナーに差し掛かったとき。
立てかけられた一冊の本が気になり、手に持った。
写真集。
フィルムで覆われてるため中は見ることはできないが、表紙から見ても俺好みだろう。
………………あいつ、喜ぶだろうか……。
いらないなら、俺が読めばいいし……。
俺は迷わずレジへ本を持っていき、包装してもらった。
翌日。
いつもどおり、帰り際。
探していた人物が俺に話しかけてきた。
「葉月くん、一緒に帰ろ!!」
「ああ……」
「今日は土曜日っ! お天気もいいし! こんな日は森林公園でお昼寝でもしたいねっ!!
……あ、でも寒いか……11月だもんね」
樋渡は嬉しそうに笑顔で俺に話す。
でも今日は本当にいい天気で。
秋の空とは思えないほど青くて。
「なぁ……」
「ん?」
「……今から森林公園行かないか?」
「え?」
「行くぞ、森林公園」
少し強引すぎたか。
自分でも不思議だった。
でも樋渡は笑って。
「『昼寝』につられたの? うん、いいよ!! じゃ、行こう!」
俺たちはコンビニで昼飯を買って森林公園に向かった。
さすがに木陰だと陽は出てるが風が冷たく寒さを覚えるので。
しばらくいても蔭らない芝生の上に座った。
見れば樋渡は美味そうにおにぎりを頬張っている。
ああでもない、こうでもないとひたすら俺に今日の出来事を話す。
俺はそれを黙って聞いてるだけだけど。
……まあ、飽きないから構わないけど……。
取り敢えず食べ終わり、満足そうな樋渡は。
「もう寝ちゃう? 食べてすぐ寝ると牛になっちゃうよ?」
けらけら笑ってる。
「………………イヤだったから、学校じゃ」
「え?」
「渡したいもの、ある……おまえに」
きょとんとして俺を見る樋渡に俺は鞄から昨日買った本を差し出した。
手に取った樋渡は包装された本と俺を交互に見る。
「これなぁに?」
「…………今日、おまえ誕生日だろ? だから、その……プレゼント……」
「ええっ!?」
どこから声を出すのか……。
素っ頓狂な声をあげて樋渡は驚く。
「わっ、わたしにっ!? これくれるのっ!?」
「ああ……俺、自分の時貰ってるから……」
「わぁ……葉月くんからプレゼント……嬉しい!! ありがとう!!」
本を胸に抱いて俺に何度も何度も礼を言う。
顔は神経緩みっぱなしで。
取り敢えずは喜んでくれてるみたいだな……。
「ね? 開けてもいい?」
「ああ」
破れないように丁寧に包装を解き、中身を見た。
『写真集 世界の仔猫たち』
途端、樋渡は喜んで声をあげた。
「カワイイ!! 仔猫ちゃんだ! 葉月くん、本当にありがとう!」
こんなに喜ばれるなんて、と。
俺は少し照れくさかった。
女にプレゼントなんてしたことないし、こいつが何を好きかもよく知らない。
だから猫は猫で返した。
俺が好きなものをあげた。
俺も本当はその本……。
「葉月くん、一緒に見よ!」
「……え?」
「葉月くん、見てないでしょ? だから一緒に見ようよ」
有無を言わさず樋渡は、俺の隣に座って本を広げながら聞いてくる。
「葉月くん、猫ちゃん好き?」
「ああ……猫、好きだ」
「わたしもっ! あ、これかわいいよ!」
俺は隣で目を輝かせて本をめくっていく樋渡を見た。
こちらに気付くはずもなく。
自分が不思議で仕方ない。
誰にも教えたことはないのに。
俺は。
またひとつ樋渡に好きなもの教えた。
「after to you」 |
20040601 |