満天の星空。
手を伸ばしたら何十個、何百個の星が掴めそう。
いくつもの星が太陽の力を借りて瞬く。
その中で一際輝く月も例外じゃない。
街の光はないのに。
まんまるに満ちているそれは甲板にオレの影を落とす。
一日中眠らないザナルカンドでは絶対味わえなかった。
月は凄い。
自分では光らないのに、太陽があるだけでその光は。
漆黒の闇夜をいとも簡単に照らし出す。
今夜も。
波に揺られるこの船を細部まで見事に照らしてる。
その月をこの手で掴めたら。
オレの手の中だけで、オレだけを。
照らしてくれるか?
……なんてな。
ごろんと寝転がっていたオレは。
天に向かって伸ばしていた手を頭の下の枕にする。
目を閉じれば。
いろいろなモノを感じられる。
心地良くなびく風。
うるさくない波の音。
そして。
彼女。
戻ってきたんだなって。
生きてるんだなって。
実感できる。
本当は。
本音は。
寂しかったんだ。
悔しかったんだ。
切なかったんだ。
――二年。
オレのいなかった二年間。
その二年は。
オレの成長を止め。
ユウナを成長させた。
二年間。
カモメ団に入るトコから始まり。
リュックに誘われ。
パインと出会って。
お宝スフィア探し。
それにルブラン一味が絡んで。
またいろんな同盟やら党やらが。
そして、シューインとレンの物語。
……そして……またスピラを救った。
それをユウナから聞かされた。
きっとユウナにしてみれば漏れなく。
細かいトコまで教えてくれた。
オレは、嬉しかったんだ。
何も隠さず。
全てを語ってくれて。
それと同時に。
寂しさと悔しさと切なさを覚えた。
オレのいなかった二年。
オレのいないトコで。
ユウナはちゃんと成長していて。
いろいろな体験をしていて。
それが。
置いてけぼりをくった気がして。
寂しかった。
悔しかった。
切なかった。
なんで。
なんでオレは二年もいなかったんだろう。
なんで?
それは。
ユウナを救うため。
ユウナを守りたかったから。
究極召喚も捨てた。
違う方法でユウナを守りたかった。
それは……オレが消える以外他になかった。
もしかしたら。
まだこれからも帰ってくる事はなかったのかもしれない。
二年は早かったのかもしれない。
でも、その二年。
二年は……やっぱり遅かった。
だんだん笑顔を失くすオレに気づいたユウナはオレの腕に抱きつき。
『ごめんね』と悲しい顔をして、俯いた。
『ごめんね……そうだよね? キミにとっては……そんな思いしちゃうよね?』
『違うって! ただ……オレ…………』
オレ、子供みてぇだな。
情けねぇッスよ。
拗ねるなんてさ。
『ねぇ……ザナルカンド行こっか』
『え?』
『ザナルカンドまで旅、しよう』
『ユウナ?』
ユウナは顔を上げオレを見た。
『キミに今のスピラを見て欲しい。 二年前とだいぶ変わっちゃったけど……でも見て欲しい。
わたしが見てきたスピラ、一緒に見よう。 ザナルカンドまで』
一緒に旅して。
一緒に変わったスピラを見よう。
南端のビサイドから。
最北の地、ザナルカンドまで。
嬉しかった。
『シン』のいなくなったスピラを。
ユウナの見てきたスピラを。
オレの、故郷……。
ザナルカンドまでを。
危険のない旅でユウナと一緒に歩けるコトが。
敢えてセルシウスに乗り込むことを二人で拒否し。
ビサイドから連絡船に乗って今はキーリカに向かっていた。
頬を優しく撫でる風が名残惜しいけど。
そろそろ部屋に戻ろうか。
ごめんな。
なんだか、もったいなくて起きちゃった。
寝てるユウナを一人にしちゃったからなぁ。
「ごめんな」って抱いて寝てあげよう。
地下に下り。
部屋のドアを開けベッドの上にいるユウナを見る。
ユウナは。
いなかった。
「ユウナ?」
部屋のどこにもいない。
シーツの上に掌を乗せるとそこはすでにひんやりしていて。
ユウナがいなくなってからかなりの時間が経っていたのを物語っていた。
「あれ……?」
客室フロアを見ても誰もいない。
オレはもう一度船上まで上がり、辺りを見回す。
オレのいた甲板にはいない。
船尾にもいない。
ならここか。
そう思って二階にあがると。
上を向いて寝転がるユウナがそこにいた。
だからもう一度部屋に戻って毛布を取りに行き。
再度二階へ上がった。
「ユウナ」
「あ」
オレに気づいてユウナは立ち上がった。
「心配したッスよ」
「それ、わたしの台詞っす」
頭を掻いて申し訳なくユウナを見る。
「ごめんな? なんだか寝てるのもったいなくて」
「わたしと寝るのイヤだった?」
「あはは、それは絶対ないって」
ユウナは少し俯いて。
「キミがいないの気づいて起きて見に行ったら甲板で寝てるでしょ? 考え事かなと思ったら近寄れなくて……それで空を見たら、少しはキミの気持ちがわかるかなと思って……」
オレは笑って。
「ホントごめんな、でもユウナ気持ちよさそうに寝てるから」
「え?」
「口開けて大イビキ」
「う、うそっ!?」
そんなユウナが可愛くて思わず笑っちゃったよ。
「んもう!」
笑いながらユウナの全身を毛布で覆った。
まだビサイドに近くても夜だから少し冷えるだろ?
「……また消えたかと思った? ごめんな」
「ううん、大丈夫。 ありがとう。 でも、もう寝る?」
「じゃあちょっとだけ起きてようか?」
二人で海に向かい座る。
ユウナがオレもと毛布をかけてくれて。
二人でその中に包まった。
温かい。
ユウナの体温。
「ユウナ」
「ん?」
「ありがとう」
ユウナは怪訝そうな顔をしてオレを見た。
「どうしたの?」
「ん、なんとなく」
「何それ」
ユウナは笑ってくれる。
「……空を見て、オレが何考えてるか……わかった?」
「ん?」
空を見上げる。
相変わらず瞬く星の数は減らない。
むしろ時間が経つにつれて増えてく気さえする。
「星がキレイだなって」
「うん」
「月が明るいなって」
オレはそのままユウナを見つめた。
青白い光を帯びて。
オレの。
好きな笑顔。
ずっと見ていたいと思う笑顔。
やっとオレの願いが叶った。
ユウナの本当の笑顔。
それを取り戻すって。
毛布の中でユウナの肩を抱き寄せる。
ユウナの驚いたのなんておかまいなしで。
「ユウナは凄い」
「え?」
「ユウナは凄い。 光っていろいろ照らしてくれるから」
オレをしばらく見つめて。
ふわっと花が開くように笑う。
「自分じゃ光れないんだよ。 キミが……“ティーダ”がいるから」
色違いの瞳。
どっちもオレの大好きな色。
その瞼に小さくキスをして。
もう一度満天の空を見上げる。
“ユウナ”がキレイに輝いていて。
オレたちを照らす。
満ちてるそれは。
オレをも満たしてくれそうだった。
『キミの名前、太陽って意味なんだって。 それでね、わたしの名前は月って意味なんだって』
なんだか……わたしたちみたいだねって。
二年前ユウナがポツリと小声で言った言葉。
意味がわかったのは随分後になってからだった。
ユウナ、違うさ。
“月”と“太陽”はそうかもしれない。
でも、オレは違う。
ユウナのおかげで光っていられる。
そして。
滅多に重なることはないあいつら。
だけど。
オレたちは違うよな。
“ユウナ”と“ティーダ”は。
お互いに照らし合って。
離れずに重なって。
いつだって一緒にいる。
だろ?
「to home ― sunshine and moonlight」 |
20060125 |