真っ白なカモメが啼きながら真っ青な空を翔る。
今日は雲もまばらな晴天。
いつだってルカの空は気持ちがいい。
船から降りたキミは大きく伸びをする。
「んー、いい天気ッスー!」
広場を抜けて街へと繰り出す。
二年前とほとんど変わらない街並み。
途中でソフトクリームを買って食べたり。
二年前の話で盛り上がったり。
「あ! あそこの店! メシが美味かったんだよなぁ」
子供のように瞳を輝かせるキミ。
わたしはそんなキミの隣に並んで歩く。
さっきからすれ違う人がちらちらと彼を見る。
振り返ったり、連れの人がいれば彼を見て何か話してたり。
「キャー」とかちょっと頬を染めてたり。
気づいてるのかな? 二年前のオーラカで活躍した彼のコト。
なんか、ちょっと。
ちょっとだけ。
彼とほんの少し離れてるこの距離がもどかしかったり。
でも。
キミの笑顔を見てると。
そんなコト吹き飛んじゃうな。
キミの。
笑顔が見れてるから……。
わたしはそんなコト考えてたから。
キミが歩きながらある店を見入ってるってコト。
気づかなかったんだ。
また広場へ戻り、スタジアムへゆっくり歩く。
懐かしい目で見るキミの隣をゆっくりと。
やっぱり急かされない旅っていいな。
エントランスから階段を上がってスタジアムのスタンドに出る。
スフィアブレイクを楽しんでる人たちがちらほらいて。
シーズンが終わった今、スタジアムの真ん中にあったスフィアプールは撤去されていた。
二人でシートに腰をかけてポーッとアリーナを見ていた。
「ああ、懐かしいな」
「ふふ、二年前は大活躍でしたもんね、ティーダ選手」
その中にはブリッツボールで遊んでる子供たちがいる。
「ブリッツかぁ……」
「やりたいでしょ?」
「ははは、そうだなぁ」
立ち上がり手摺に手をかけたと思った瞬間。
軽やかに身を躍らせ。
そこから華麗にも飛び降りた。
「え……!? ちょ……!!」
慌てて下を見下ろすと、彼は綺麗に着地してそのコたちの元へと歩き出す。
わたしも下へ降りる階段を探し、ようやくアリーナへ行きついた頃、彼は子供たちと二言三言話をしていてそのボールをポンポンと脚でからかっていた。
まるでボールが脚に吸い付くように。
リフティングし、徐々に高くボールを跳ね上げ。
一番高く上げたボールに追いつくよう自分も跳躍し。
惚れ惚れするほど綺麗に後ろに反りながら、ボールを蹴る。
それは軌道を描き、遥か遠くへとボールが消えた。
ボールの消えた空を。
口を開けてぽかんと見ている子供たち。
わたしも例外じゃなく。
そして子供たちと同時に彼を見る。
子供たちが揃って口を開け、何かを言おうとした瞬間。
耳をつんざくような黄色い声がわたしたちを飲み込む。
「きゃあああああああああああああああああ!!」
「!!?」
見ればスタンドにいた女の子たちが彼に向かって。
「ティーダだよね!?」
「うわぁ! 本物―!?」
「今の見たわよ!」
そしていつの間にかアリーナに下りてきていた女の子たちに囲まれる。
蚊帳の外のわたしは。
何が起きたのかわからず彼を取り巻くその塊をただただ見ていた。
「ねぇ、ティーダでしょ!?」
「去年も今年も大会出てなかったよね? 何してたの?」
「うっわー! 近くで見るとめっちゃめちゃカッコいい!!」
後ろに手を組んで、しばらくその状況を見ていたんだけど。
「すごいんだ、相変わらず……」
なんだか。
なんとなく。
そこにいることができなくて。
わたしはスタジアムを後にした。
今日は空が綺麗なんだ。
その青さに目を細めて。
広場まで歩き続けた。
よかったね。
やっぱりみんな覚えていてくれたんだね。
キミも懐かしいんじゃないかな?
エイブスのエースだって言われてた時も。
二年前の衝撃的なデビューの時も。
女の子に囲まれて。
懐かしいんじゃないかな?
嬉しいんじゃないかな?
それと同時にね。
何故だか少し落胆した自分がいたりして。
広場のベンチに座って、空を見ていた。
「あの……ユウナ様ですか?」
「え? あ」
「はは、やっぱり本物だ! オレ一度でいいからお会いしたかったんです!」
知らない男の人。
手を取られ、強引に握手される。
『え? ユウナ様?』
『本物かよ?』
とまわりがざわざわしてきたと思ったら。
何十人もの男の人に囲まれて。
身動きが取れなかった。
「あ、あの……」
「ユウナ様、やっぱりお綺麗ですね!」
「うわぁ、めちゃめちゃカワイイな! オレ、ホントユウナ様憧れてるんです!」
ちょ、ちょっと!
どうしよう……。
まさかこんなに人が集まるなんて……。
「はいはーい、ちょっとごめんねー」
聴き慣れた声が耳に届く。
その人垣をかき分け入ってきた人物。
「ティー」
「みんな、悪ぃね。 ユウナ今忙しいんだ」
無理矢理手を引っ張られ。
広場の奥の階段を駆け上がる。
ルカが一望できるその場所。
ミヘンに続くそこは人通りも少なく。
息を切らせて階段を上りきる。
彼を見ると。
少し。
…………怒ってる?
「…………あんなに近寄られてさー」
「だ、だって……でもそれはキミも……」
「ユウナいなくてビックリしちゃった。 もう一人でどっか行かないでくれよ」
ぷぅっと膨れるキミ。
わたしのせいじゃ……ないじゃない。
わたしか彼の手を離し、背を向けた。
「…………キミだって……満更じゃないでしょ? 女の子たちに囲まれて……」
「……ぷっ…………くくく」
「……?」
「あははははは!」
「……!」
いきなり笑い出した彼。
わたしはなんだか。
「……ムカツキ……」
「あははは、ごめんごめん」
一通り笑い終えた彼は。
わたしの背後に立ち。
後ろから抱き締められた。
耳元でくすくす笑われる。
「妬いてくれたんだ」
「……!! ち、違……!」
「そうだっての」
「………………違うっす」
「違わないって、オレもそうだったから」
「……え」
再びむくれ始める彼。
「だってさー、街ん中ユウナ見てる男ばっかだったんスよ?
それでさっきのアレだろ? 気が気じゃないっての」
「そ……それはキミだって!」
「違うッス、ユウナの方が見られてた! 女のコに見られるの悪くないけど……今オレそういうのキョーミないし。
あーやだやだ、ユウナあーんなヤラしい目で見られてたりさぁ」
「わ、わたしのせいじゃないよ!」
わたし……見られてた?
全然気づかなかったけど……。
「ねぇユウナさー、ブリッツ好き?」
「え? あ、えーと……好きかな?」
「じゃあさ、二年前のブリッツしてるオレってどうだった?」
「え……? 言うの……?」
「何? 言えねぇの?」
ちょっと躊躇した。
だって……恥ずかしかったから。
だけど、彼の声が『早く』と急かすから。
「カ……カッコよかったよ?」
「ブリッツしてるオレ、好き?」
「え…………とね………………うん、好き……だな」
「また観たい?」
「う、うん……また観たいよ?」
「よし! 決まり!!」
ビックリして彼を見ると。
抱き締めたまますごく満面の微笑みでわたしを見ていて。
「オレ、ブリッツする!」
「え?」
「やっぱやりたい。 オレからブリッツとったらなんも残らないし。
それにすごくカラダ動かしたいからな!」
目を細めて笑うキミははしゃぐ子供みたいで。
わたしもつられて笑っちゃった。
「ふふ、また女の子たちに囲まれちゃうね。 キミも鼻の下なんか伸ばしちゃったりして」
キミの鼻の下を人差し指でつつく。
その手を掴み、ぎゅっと力を入れた。
「からかうなんてヒドいッス」
「……ご、ごめん」
「キョーミなんかないって」
わたしの首に巻かれた彼の腕は苦しいくらいに力を入れて。
「もう、オレにはいるじゃん」
「え?」
「あのさ、オレいい店見つけた」
「店?」
「いつか……いつかユウナにプレゼントしてやる」
「ティーダ?」
「だからさ、もうちょっと待っててな」
ほら行こう、と。
わたしの手を繋いで。
ミヘンへの階段を上がる。
「ずっと手繋いでるッスよ?」
「どうして?」
「ユウナはダメ! すぐフラフラするからな」
「フラフラって……しないっす、子供じゃないんだから」
「いーや、危ない。 あんな…………ヤローどもに……」
「?」
「……もう離れないッスからね」
もうちょっと。
それは次のブリッツシーズンが始まり。
大きな大会が終わるその頃。
それまで。
わたしは彼の計画を全然知ることは。
なかったんだ。
「to home ― start」 |
20060504 |