聖地ベベル――。
かつてのエボン総本部。
『シン』もいなくなり。
新エボン党の本拠地も。
派閥が崩壊しつつある今は。
今はバラライさんやイサールさんがここに留まって。
いろいろ指揮をしてくれてるみたい。
「……どうしたの?」
「…………なんでもねーッスよー」
マカラーニャを出てから気づいた。
ベベルに近くなるにつれて。
無言になるキミ。
無言、と言うか。
口を尖らせて膨れてる。
……どうしたのかな?
わたし、何か言っちゃったかな?
「あ、ユウナ様」
「あ! バラライさん!」
「お久しぶりです」
寺院の前で数人の僧官さんたちと話し込んでるバラライさんがわたしたちを見つけて、声をかけてくれた。
彼にバラライさんを紹介した。
新エボン党の議長さんだった人。
あんなコトがあって多少体調も優れないと聞いてたけど。
今はだいぶ顔色がいいみたい。
「ユウナ様の演説聴きたかった人、大勢いましたよ。
みんな残念がってた」
「いいえ、バラライさんたちも立派な演説でした」
「前党首の息子も今いますが……挨拶されますか?
ユウナ様に会いたがっておりますが」
「えっ!? あ、あのっ、結構です!」
「ははは、そうですか。 あれ? そちらの方は?」
「あ……彼は」
バラライさんは彼に握手を求め、彼もそれに応える。
「ああ、お話は聞いております。 ユウナ様のガードに出会えてとても光栄です」
「いや……ども」
「ユウナ様の彼氏ですよね」
「えっ!? あ、いえ、あの……」
途端彼はわたしの肩を引き寄せ。
にっこり笑った。
「そうッスよ」
「あはは、お似合いだ。 ユウナ様、幸せですね」
真っ赤になったわたしをおかしく思ったのかもしれない。
少し雑談をして、バラライさんは寺院に入って行った。
「ああ、もうビックリした」
「なんで? ホントのコトッスよ」
「でも……」
「今更。 あ」
「え?」
彼は自分の頬を撫でわたしに聞く。
「息子って、誰?」
「あ……」
話していいかどうか……迷って。
「あのね……その…………」
「ん?」
「キミが……いない間…………見合い話をよく持ち込まれて……で、その中のひとりなんだ……」
「見合い……」
「あ! ちゃんと断ったんだからね!」
「その中の……」
微妙に蒼白な顔色してるキミ。
全然否定しても聞いてるのか聞いてないのか。
「ああ〜……だからオレココの寺院キライなんスよね」
「え?」
「ココの寺院、キライ」
耳を疑った。
「……ユウナ?」
「嫌い……?」
「え……?」
「ベベル……嫌い?」
「わっ、ユ、ユウナ! 違うって!」
「…………ううん、行こ」
うん。
嫌いなら仕方ないよね。
無理に好きになってもらっても、嬉しくない。
ベベルを出ようとしたわたしの腕を彼が掴む。
立ち止まって振り返れば。
彼は申し訳なさそうに髪をかいて。
「あー……違うんスよ、ユウナ」
あちこち瞳を彷徨わせる。
申し訳なさそうに。
「ココの”寺院”って……オレにとって…………あんまいいコトないんスよ」
「………………?」
「…………ユウナの…………その……ユウナの結婚式、とか……」
「あ……」
ぼそりと呟かれた言葉。
忘れてた。
思い出した。
シーモア老師との、婚儀。
あの時は。
スピラのために覚悟した結婚だった。
スピラのみんなの笑顔が見たくて。
喜んでもらいたくて。
そのため彼を、諦めた。
結婚……だった。
忌まわしい記憶。
こびりついた唇の感触。
嫌なものに纏わりつかれてるようだった。
でも。
でもね。
「二年前に……言ったっけ? すごく嫌だったって。
シーモアが嫌いで……でもその隣にはユウナがいて…………もう、見たくないって」
「……うん」
そんなわたしを救ってくれたのが。
キミだった。
聖なる泉。
ナギ平原。
伝わったんだ。
「ん?」
彼の手に。
触れる。
あまり口にはしないキミ。
けど、この手が。
この腕が。
わたしに触れてくれる時。
これ以上ないくらい。
彼の想いが伝わる。
「あれもイヤな思い出だし、見合いの話も聞かされるし」
「だ、だからね、ちゃんと断」
「でも、ベベルは好きだよ」
「え?」
わたしの手を握り。
寺院を後にする。
「ユウナの生まれ育ったトコだもんな」
――覚えてて、くれたんだ……。
「うん、もうそうしようっと」
「へ?」
「やっぱりオレ決めたから」
「決め……何を?」
ニッと口の端を上げる。
これを不敵の笑みとでも言うんだろう。
「ナイショ。 だからもう見合いは受けちゃダメッスよ、絶対ダメ」
「え……あ、うん……」
訳が分からず彼を見ていた。
手を引っ張られる。
“街へ行こう”と。
「ずっと、こうしてるってコト」
「……? ずっと……? 今までもずっと手繋いでたよ?」
「そうじゃなくって」
「?」
「ずっとだって、言ったろ? こりゃ早くしないとなぁ、うかうかしてらんないッス」
やっぱり意味が分からなくて。
何度も訊いたけど。
教えてもらえなかった。
それは永遠の。
永遠の約束の決意だなんてその時には。
知る由もなかったんだ。
「ユウナ、ベベル案内してよ。 オレユウナの生まれたトコ、もっと好きになりたい」
「to home ― resolution」 |
20060822 |