「ここは……相変わらず、キレイなんだな……」
「うん……でもね」
分かってる。
グアドサラムから雷平原を越え、足を踏み入れたマカラーニャの森。
淡く青く漂う森。
キレイって。
神秘的って。
こういうの言うんだろうな。
でも。
明らかに二年前と違ったんだ。
祈り子が消えて。
この森も消えゆくと言う。
立ち止まり、上を見上げるオレ達。
「よかった、オレ間に合って」
「うん」
静かに響く声。
他に人の気配もない。
本当によかった。
消える前に見られて。
だってさ。
ここは。
「オレ達の大切な場所だもんな」
ユウナの手を強く握った。
「覚えてる?」
「当たり前だろ?」
オレの特別な記憶。
それは長く。
何度も何度も執拗に重ねた。
甘い、甘いユウナとのキスだった。
オレにとって初めてのそれ。
痛々しかったユウナに。
初めて涙を見せたユウナに。
どうしていいか分からずに。
でも何とかしてあげたくて。
気づいたら……カラダがそうしてた。
安心させたくて。
シーモアの口づけなんか残しておきたくなくて。
……オレの気持ちも知ってもらいたくて。
それにユウナは。
応えてくれたんだ。
柔らかい唇に。
結局オレの方が安心させられたりしたんだけどな。
「あの時……わたし本当に嬉しかったんだ。 ありがとうね」
「オレこそ」
いつの間にかあの泉に来ていたオレ達。
縁に座り。
自然とユウナの肩に手を回して。
「ユウナ」
そのまま引き寄せ。
瞳を見開くユウナを他所に。
その唇にオレのをあてがった。
角度を変えて。
歯列をなぞって。
どのくらいの時間が経ったんだろう。
名残惜しそうにようやく引き剥がし。
「ユウナ」
「ん?」
「ここがなくなっても、オレ達の中では褪せないよな?」
「ティーダ……」
「オレは、一生忘れない」
「……うん」
ユウナがオレの胸に顔を埋めた。
そのまま抱き締めてやる。
「本当はさ」
「ん?」
「あの時全然そんなつもりはなかったんだ。 ユウナに自分の想いを伝えようだなんて……そんな気なんか全然なかった」
「………………」
ユウナの頭を撫でながら。
オレは星の瞬くその空を見上げながら。
ぽつりぽつりと話し出した。
ビサイドでワッカにユウナに惚れるなと。
止められた。
そしてグアドサラムでルールーにユウナを好きになるなと。
釘を刺された。
……後になって二人の意図が分かったんだけど。
確かに最初は可愛いなって思ってた。
でも思えば。
シーモアのプロポーズ頃から気になりだしてたのかもしれない。
そしたらさ。
オレの中でユウナが大きくなって。
ユウナのコトしか考えられなくて。
自制心なんかきかなかった。
だから。
どうしても、ユウナを抱きしめたかった。
ユウナにキスしたかったんだ。
こんな小さい肩を震わせて。
涙を流して。
本当は。
強がって。
肩を張って。
でも。
すごく弱かったんだって。
気づいたんだ。
「そんな弱かった、かな?」
「弱いッスよ、ユウナ」
ユウナを抱き直し。
「でもさ、リュックが言ってた。 ユウナがシーモアにプロポーズされた時、早く旅の続きに行きたいって言ったら“ヤキモチ?”って言われちゃった。
そうだったのかもしれない……グアドサラムでシーモアの屋敷へ行ったユウナを待ってた時も“キミにもチャンスが出来たね! どうせならユウナと結婚してさ、旅やめて静かに暮らしなよ”ってさ」
オレの腕の中にいるユウナは小さく笑った。
「ふふ、そんな会話してたの」
「……だからさ……ああ、そうだなって。 何もかも終わったら……そしたら」
ゆっくりオレを見上げるユウナ。
色違いの瞳。
どっちもオレの好きな色。
――オレ。
本当に戻ってきてよかった。
ビサイドに。
ユウナの元に戻ってきて。
「約束したよな? オレ、ずっとユウナのガードするって。
“最後”までじゃなくて“ずっと”って」
ユウナは静かに頷いた。
「あの約束、時効ないよな」
「うん」
「ずっと……ずっとな」
時間が、止まった気がした。
いいよ。
このままでいい。
世界にオレ達たった二人だけでいい。
森と一緒に。
消えたって構わない。
ユウナにそんなコト言ったら怒るかもしれないけど。
ユウナと一緒なら。
オレは。
一緒に消えても構わない。
その思いは。
オレの胸から。
――今後も。 ずっと。
一生消えるコトは、なかった。
「to home ― fadeless」 |
20060505 |