ザナルカンドからの帰り。
リュックを呼んで飛空挺でビサイドまで送ってもらう途中。
もう真夜中。
風呂を借りて、セルシウスの居住区のカウンターでマスターと話をしてるとリュックがやってきた。
オレの隣に座って。
「あれ? ユウナは?」
「今ブリッジにいるよ」
「アニキもいる? なんか、アイツ油断ならないッス」
「大丈夫、手出さないよう言ってあるし、パインもいるしね」
『マスター、アタシにも一杯ちょうだい』と。
ジュースを受け取る。
「どうだった? スピラは」
「ああ……結構変わったトコもあったなぁ」
「ユウナん楽しそうだったね」
「うん、そうッスね。 ずっと笑ってた」
「ユウナんは……ずっとキミのコト思ってたんだ」
「え?」
見るとリュックは手を組んでその上に自分の顎を置く。
「ドコ行っても、ユウナんはキミのコト思ってた」
二年の時間が止まってたユウナ。
ルカでも幻光河でもマカラーニャでもナギでも……どこでもその場所に行けばユウナは目を細めて。
オレの顔のある高さまで見上げて。
空を見る。
こんなコトしたなとか。
こんなコト話したなとか。
二年前のコトを思い出してた。
ずっと、ずっと。
想ってた。
リュックからそう、聞いた。
「アタシらには何も言わなかったけど……一生懸命変わろうとしたんだよ、ユウナん。
口調とか、格好とか。 でもやっぱりどっかムリしてた。 二年じゃ……そんなに変わらないよね」
「………………」
「ユウナん、頑張ったよ」
「うん……オレもそう思う」
うん。
ユウナは頑張った。
だから……オレ。
決めたんだ。
「ねぇキミさ、ユウナんに“好きだ”って言ったコトある?」
「は? 何突然」
「ううん、なんとなく〜」
「う〜ん……オレ、そういうのあんま口にしないからなぁ……」
「まさか……言ったコトないの?」
それはいつも思ってるさ。
でもちゃんと口にしたコト……。
「1回か……2回?」
“もう!”とリュックがバンと背中を叩いた。
「もっとさぁ言ってあげなよ〜! ユウナんだって聴きたい時だってあんだよ!
伝えなきゃいけない時だってあるんだから!」
そんなの分かってるさ。
でもユウナも同じ気持ちでいてくれてるって。
知ってるから。
疎かになる時がある。
「あれ? 何してるの?」
その時ちょうどユウナがエレベーターに乗ってやってきた。
風呂から上がり、髪も外ハネじゃなく。
いつもの襟足のつけ毛も今はない。
「えへへ、ユウナんの悪口」
「え!?」
オレとリュックは笑って。
「もう、ひどいっす!」
「あはは、じゃあお二人でごゆっくり〜、ビサイドまでまだまだだから寝てなよ」
リュックがブリッジへと向かう。
「もう寝る?」
「うん、でもね今日は星がキレイだから……甲板に行こうかなって。
あ、キミは寝ててもいいからね」
「オレも行くッス」
「え? あ、いいよ? わたしすぐ戻るし……」
「行こう」
オレは彼女の手を引いてユウナの前を歩き、エレベーターの「上」のボタンを押す。
居住区にやってきたそれに乗り込み一番上まで上る。
ハッチが開かれ。
甲板に出ると。
風はやや弱く。
頬も痛くはなかった。
スピードはゆっくりめだ。
「ねね、星、キレイだね」
「ああ」
ユウナの座った隣に。
オレもあぐらをかいて座る。
「スピラはいつでも星がキレイだな」
「そうかな」
ふと。
空を見上げるユウナの横顔を見やった。
二年前の顔とはまた違う。
とても満たされたような顔。
二年前から……オレは。
ユウナのコト。
さっきのリュックの言葉を思い出した。
きっと。
オレが思ってるより。
この二年は辛かったんだろう。
誰にもきっとわからない。
ユウナの辛さも。
苦しさも。
でも。
オレは嬉しかった。
外ハネの髪。
胸のエイブスのマーク。
フード。
オレを、忘れてくれてなかった事に。
ごろんと横になり。
頭の後ろで手を組んで、枕にした。
「ユウナ」
「ん?」
「オレの気持ち……知ってる?」
「……? オレの気持ち……?」
「そう、オレの気持ち」
ユウナも一緒になって横になる。
互いに見上げる星空。
少し雲がかかってきた。
「キミの気持ち……」
「オレがユウナに対する、気持ち」
「………………」
「オレ、あんま言ったコトなかったよな?」
「え……」
「オレがユウナのコト……どれだけ想ってるかって」
「………………」
「オレ……」
じっと。
ユウナを見つめる。
ユウナもオレを見返す。
どれだけ時間がかかったんだろう。
口を開きかけたその時。
ふと。
オレの頬に冷たいものが落ちてきた。
起き上がって頬を触ると。
水。
それは徐々に数を増してきて。
遠くを見れば。
暗い空が不定期に光ってる。
「雷平原か……」
近づく雷平原上空。
空を見上げれば暗雲の中、嫌な音と共に止まない光が多数。
さっきまで晴天だった夜空も、雨雲に隠れ。
雨も急激に降り出し。
オレとユウナは急いで機体の中に身を隠した。
再び居住区へ行き、マスターにタオルを借りてユウナの髪や体を拭く。
「そろそろグアドサラムってことはビサイドまであと半分くらいッスかね?」
「そだね」
オレはセルシウスの居住区で。
雷が避雷塔に落ちていくのを見ていた。
「あ!」
「?」
「グアドサラム! オレ、用がある!」
オレは急いで居住区の二階から飛び降り、ブリッジへと戻り。
セルシウスの操縦者、アニキに駆け寄った。
「アニキ! 頼む、グアドサラムで下ろしてくれ!」
「あ? そのまま下ろしていっていいのか?」
「バカヤロ。 ちょっとだけだから待ってろよ」
「だいたいだ。 おまえに何の権限がある! ワロティーダ!」
「アホってなんスか、アホって!」
「アニキさん、お願い。 ちょっとだけ下ろしてもらっていい?」
オレの後をついてきたのか。
ユウナがゆっくり階段を下りてきてアニキに近づく。
「くっ……ユウナの頼みなら〜……」
アニキは渋々操縦桿を握る。
機体が徐々に降下し、グアドサラムに近い平原の隅に着陸した。
ハッチが開き。
オレは飛び降りる。
振り返り。
「ユウナは? ちょっとだけだし、待ってる?」
「わたし、行ってもいいの?」
「途中までならオッケーッス」
「??」
ユウナは不可思議な顔をして。
オレの隣に着地した。
「行きの時も来たけど……何かあったの?」
「うん、ちょっと……」
「???」
ユウナの手を取り。
幾重にも重なる街の一番最奥。
「ここは……」
「そ、異界。 入れるよな?」
「たぶん……でも、なんで?」
オレがいなくなってた二年間。
ユウナは一度もここに足を踏み入ることができなかった。
そう聞かされた。
もう、大丈夫だろ?
オレはこうして、ユウナの隣にいる。
「ちょっとさ、会いたい人がいるんだ」
「会いたい人? ジェクトさん?」
「ああ、オヤジか。 忘れてた」
「ふふ、怒られるよ?」
「オヤジなんか出てくるのかな? あ、異界送りしたから出てくるか」
辿り着いた異界の入り口。
長い階段の先に見える幻光虫。
「キミと再会するまでは幻光虫が異常発生してて入れなかったんだ。
でも今は少なくなってるみたい……大丈夫そうだね」
「ユウナはここにいてくれる?」
「え?」
「入りたかったらまた今度オレと一緒に来よう。 でも今日は……ダメッスか?」
ユウナは首を微かに傾げ。
少し寂しそうに。
だから、ユウナの肩を引き寄せ。
額に口づけをした。
「すぐ戻るから」
「……うん」
階段を上り。
薄く膜の張った入り口へと入る。
漂う虫や。
不思議な景色。
二年前と、変わらない。
あの時は母さんが出てきたっけ。
でも。
今度は。
オレは目を瞑り。
意中の人物を思い出す。
二年前の記憶を引っ張り出すけど。
容姿も声も忘れてなかった。
そして。
瞼の向こうが明るくなった気がして。
そっと目を開けた。
異界を出。
すぐさまユウナを探す。
ユウナは階段の一番下で、こちらに背を向け腰をかけて座っていた。
オレはそーっとそーっとユウナに近づき。
めいっぱい後ろから抱いてやった。
「わっ!?」
「お待たせ、ユウナ」
見開いた色違いの両目をオレに向け。
顔を真っ赤にして。
「もう、ビックリさせないで!」
「あはは、ごめんごめん」
ユウナを立たせ。
手を引き、異界を出た。
「もう心配したっす」
「ごめんて。 オレ、異界の住人になっちゃったらどうしようって?」
「………………」
図星な無反応。
「異界なんか行きたくねーっての」
「……行かない?」
「やだ、絶対。 じーさんになったらな」
ユウナは笑ってオレの手を強く握り返した。
「会いたい人には会えたの?」
「ああ。 母さんにも、オヤジにも会ってきた。 あとアーロンとか」
「そっか。 わたしも父さんや母さんに会いに行って来ようかな」
「ユウナ」
「ん?」
「オレ、早く家に帰りたい。 ユウナの作った料理、食いたい」
ユウナはビックリしてたけど、すぐに笑顔になって。
オレの手を引っ張り前を歩き出した。
「じゃあ、早く飛空挺に戻るっす!」
グアドサラムの街を下り。
街を出ようとしたところでオレは一度、振り返った。
「ユウナ……」
歩みを止めたオレに引っ張られ。
ユウナは体勢を崩しかけた。
「オレ、ユウナが好きだ」
ユウナを見ずに。
告白した。
「好きだ」
「…………うん」
「だから、ここへ来た」
「え?」
ユウナと視線を合わせ。
笑った。
「また来よう。 二人で」
「…………うん、二人で来ようね」
オレは意中の人物に会えた。
そして話もした。
オレの決意と。
ユウナのこと。
もう一度来るんで。
また。
会ってやって下さい。
「to home ― epilogue」 |
20070530 |