ベッドの上でゴロゴロする。
理由なんて覚えてない、些細なコトすぎて。
ちっぽけなコトでケンカ。
オレが怒ったらユウナは出て行った。
怒ったような悲しいようなカオして。
それに罪悪感を抱きながら、こうして枕を抱えて。
広いな……。
ユウナがいないだけでこんなに広く、静かな家になるんだな……。
「ああ、もういいや!」
ほかのコトでもして気を紛らわそうと思って。
とりあえずほうきを持って掃除をしようとした。
ふと、窓に立て掛けてある写真立てが目に入る。
オレとユウナが写った写真。
二人がこの家に入るちょっと前。
ユウナの髪型が昔に戻った時に撮ったんだよな。
懐かしいから一枚撮ろうって。
でもそれからもずっとユウナは外ハネの髪に戻さなかった。
ユウナが言うにはオレがいるから。
オレが傍にいるから、もうしなくてもいいんだって。
それがすごく嬉しかったり……って!
オレまたユウナのコト考えてる。
手にとった写真立てを元に戻し、今度は掃除しようとテーブルを隅にどかそうとした時。
テーブルの花瓶が倒れる。
「うわっ!」
床に落ちたそれは派手に音を立てて、割れた。
「あーあ……」
ユウナが選んだ花瓶。
怒られるかな……。
淡い青の、見る角度によっては色が7色にも見える花瓶。
青が好きだ、と。
青はオレの瞳の色だからと。
花瓶の中の花もオレが好きだって言ったものしか生けない。
名前も知らない花なのに。
それは枯れてるトコを見たことがない。
オレがいない時に変えたりしてるんだろう。
ハッと気付いてオレは頭を抱える。
もう……気を紛らわすんだろ? オレ。
床を拭き、花瓶を片付けようとすると。
その一瞬。
熱い痛みが走り顔をしかめる。
いつもならしてるグローブも、今日はしてなかった。
破片で手を切ったらしい。
舐めてみたけど、意外と傷が深いらしくなかなか血がおさまらない。
小さく溜息をつき、絆創膏を探す。
ところが。
「あれ?」
あったと思ってた場所にない。
おっかしいなぁ……どっかへ片付けたのかな?
ユウナに聞かな……。
情けない。
オレ……ユウナがいないと何もできない?
てか。
悔しい。
悔しい。
悔しい。
なんでこんなにユウナのコトばっか考えるんだろう。
なんでこんなに……ユウナのコト好きなんだろう。
あんなに言い合ってケンカしたのに。
考えるコトはユウナのコトばっかで。
顔を見たくて、声が聴きたくて、肌に触れたくて。
たった一日だけなのに。
悔しい。
「なんか……よく分からないけど…………負けてる気がする」
「……何に?」
それは紛れもなく今オレが一番聴きたい声。
振り返れば他の誰でもない彼女が玄関に立っていた。
「血……」
「あ……」
血相を変えたユウナはオレが探してたトコとは反対のサイドボードの中から薬箱を出し、絆創膏を取り出した。
何も言わないでオレの手を取り、血の出た指を舐めた。
血の出ない僅かな時間で手際よく絆創膏を貼ってくれて。
「大丈夫?」
「あ、ああ……」
ユウナが床にばらまかれた花瓶の破片を拾おうとした瞬間。
「触るな!」
彼女のカラダがビクッと震えた。
思わず叫んでしまった。
ユウナを立たせ、抱き締める。
「ごめん。 ケガしてほしくないんだ……だから」
「………………」
「……昨日は……ごめんな?」
オレの腕の中でユウナは首を横に振る。
「ううん、わたしこそ……ごめんなさい……」
「花瓶も割れちまった……ごめん……」
「気にしてない……キミのコトの方が気になるよ……」
きっと今泣いてるんだろうな。
オレの腰にゆっくり腕が回る。
「ごめん……オレ、ユウナがいないとダメだな」
「そんなコトないよ……」
「ケンカしないのが一番だけど……もしもケンカしたら…………すぐ仲直りしような」
「うん……うん…………」
こんなモヤモヤした気持ち、イヤだから。
自惚れじゃなきゃそれはユウナも一緒、だったんだろ?
だから戻ってきてくれた。
言うとユウナは真っ赤な目をして「絶対自惚れじゃないよ」と笑ってくれた。
なぁ、ユウナ。
今からユウナが好きな青の花瓶買いに行こう。
できれば、もう一個買おう。
碧の花瓶。
ユウナの片目の色。
2つあるオレの好きな色のうちの1つ。
それにはユウナの好きな花、オレが生けてやるから。
だから、買い物ついでに。
もっと仲直りしよう。
「thinking of you」 |
20061112 |