陽がそろそろ真っ青な海へ静かに落ちる頃。
それに照らされた真っ赤で眩しい船体が頭上でゆっくりと旋回する。
セルシウスはハッチを開け、そこから愛しい恋人を吐き出した。
「ユウナ!」
オレの目の前に飛び降りオレだけの笑顔で。
「ただいま!」
「おかえり!」
飛びついてきたユウナをオレは手を広げて迎えた。
揺れる髪の毛がくすぐったい。
オレが帰ってきてからもう3ヶ月経ってるのに。
ますます愛おしくなるのは。
離れてたのはたった一日だけなのに。
すごく寂しくなるのは。
ユウナがそれだけ凄いんだろうな。
『ユ、ユ、ユウナァァァァァ〜〜〜……』
スピーカーがアニキの情けない声を発する。
後からユウナに聞いたけど、アニキはここに来るときに拾ってきたらしい。
勝手に3人でセルシウスを動かしたコトに大目玉だったとか。
『ティーダァ〜! ユウナに近づくなぁぁぁ〜!!』
オレは溜息をつく。
バカだなぁ、あいつ。
「そんなのムリな注文に決まってるよな、なぁユウナ」
「え?」
いい加減理解しろってーの。
ユウナの顎を持ち上げて。
キスをした。
勿論アニキに見せつけるため。
『あっ、あっ、あああああああああ!!!! ユウナァァァァァァァ!!!
タレノ〜〜〜!! モへ〜〜〜〜!!!』
『ああ、アニキ! もう諦めなよ〜〜っ! んじゃユウナん、またねぇ!』
ユウナは真っ赤になりながら空に浮かぶセルシウスに手を振る。
東の空へ赤い船体は飛んでいってしまった。
それが見えなくなった所で。
後ろから。
「おい! コラ、おまえら!! いつまで抱き合ってんだ!」
「へ?」
「ティーダ! おまえは練習の最中だろ! オレらにも見せつけてんのか!」
そういやオレはブリッツの練習中だった。
セルシウスを見つけてそんな事はアタマから吹っ飛んでた。
「ったくよォ、ユウナがちっといなかっただけなのに練習にも身が入んねぇでよ」
「そうなの?」
「だって、心配じゃんか。 あ、ワッカ、オレ今日練習おしまい」
「ああ?」
「え? いいの?」
「いいの」
後ろで憤るワッカを他所に。
ユウナと桟橋まで移動した。
だってそうだろ?
危なそうなトコへ行ってさ。
オレ達は桟橋の一番先で腰をかけて。
「大丈夫だったか? えーと……ヤドノキ、だっけ?」
「そうだよ。 うん、ちょっとね……危なかった」
「え!? ウソだろ!?」
ユウナはクスクス笑ってるけど。
「キミ、心配しすぎ」
知ってる。
ユウナは強くなった。
でも。
そういう問題じゃない。
オレはユウナの腕の傷を見逃さなかった。
大きな溜息をついて。
腰のバックからポーションを取り出した。
「え? え?」
「まったく。 ケガしてるッスよ」
ユウナの頭の上からポーションをふりかけてやる。
「え? 全然気づかなかった……ごめんね、早く帰ってきたくて」
「?」
「キミに早く…………」
「ん?」
「キミに………………キミがお腹空かしてると思って早く帰ってきたかったの」
真っ赤な顔で白い歯を見せて笑う。
『早くキミに逢いたくて』って。
なんで素直に言えないかな。
なーんてな、自惚れ……だな。
「……相変わらずだな、ユウナって」
「え?」
「なんでもないッス。 ほらユウナ、夕陽」
「あ……」
水平線に溶け込む太陽。
真っ赤に燃え上がり水の中に沈んでく様は。
その暑さを冷ますように。
「キミが沈んでくね」
「そしたら、今度はユウナが顔を出すッスよ」
振り返り、沈む太陽の向かいには。
痛いほど細い三日月が太陽の光りを浴びキラキラと輝いていた。
「わたしね……昨日ヤドノキで夕陽見てた」
「へぇ」
「いつも違う顔でいる太陽……キミが帰ってきてから気づいた。
毎日毎日同じなのに、違う。 キミみたいにね。 キミを思い出して……キミのこと想ってた」
「……オレも昨日の夕陽は見てたッスよ」
「え?」
夕陽に照らされた色違いの二つの瞳は。
朱に溶けてオレを捉えてる。
「たまたま、だったんだよな……昨日もやっぱり練習してて…………ふと、夕陽見てさ、“ユウナ、今頃どうしてるかな”って……“危ない目にあってないかな”とか“オレもついてけばよかった”なんて」
「ふふ、心配症っすね」
「……もう、ユウナには危ない思いはして欲しくないから」
「……ティーダ……」
「そんな風に思いながら夕陽見てた。 まさかユウナも見てるなんて思わなかったッス」
ユウナは静かにオレの腕に自分のを絡ませ。
頭をオレの肩に預けた。
「わたしたち……考える事一緒だね」
「そうッスね」
「わたしたち、お互いのこと想ってる?」
「そうッスよ」
「わたしたち…………離れてても、繋がってるね」
オレは小さく笑い。
オレの肩に預けるユウナの頭にオレも重ねた。
柔らかいユウナの髪を頬に感じ。
小さな幸せを感じ。
「リュックとねパインに久しぶりに会ったの。 ……でもなんでかな、二人の考えてるコトとか全然見えなくて……リュックとはついケンカしちゃって……」
「珍しいッスね」
「でもね、わたしたちそれでもやっぱりわたしたちで……変わらないんだよね、基本的には」
遠くの太陽はもう半分以上海に沈んでいた。
「変わらないさ。 人間そんなカンタンに変われないッスよ。
ユウナだって二年経ったって変わんなかった」
「そうかな?」
「そうッスよ。 だからリュックともパインとも……離れてたって繋がってるだろ」
「うん」
オレはユウナの髪にキスして。
「でもオレたちはそれ以上に繋がってる。 離れてたってどこにいたって……オレたちは繋がってて、オレたちだけは離れることないから」
「ふふ、嬉しい」
笑いを含む声がオレの鼓膜に響く。
じゃあ約束、と。
ユウナの差し出す小指に自分の小指を絡めた。
小さな。
本当に小さな幸せ。
そう、オレたちは。
どんなに離れてても。
どんなに逢えなくても。
だろ?
だからもう一度出逢えた。
もう。
離れることなんてないんだ。
諦めろよ。
覚悟しときなよ。
オレから離れることなんてできないから。
オレから逃げるなんてできないから。
「違う夕陽と、小さな幸せ」 |
20060116 |