乾いた喉を水で潤す。
まだ夜明け前、鳥の声も聴こえない。
オレが帰ってきて四日目。
自分の手をじっと見つめた。
二年ぶりのユウナの肢体。
快感と快楽を同時に取り戻した夜。
少し笑った。
こういうのって……幸せってんだろうな。
ビサイドの浜にいたオレを一番最初に見つけてくれたのはユウナだった。
一番最初に抱き締めてくれて。
一番最初に“おかえり”って言ってくれた。
容姿は変わっても……中身はちっとも変わっちゃいなかった。
自分の事顧みるコトもしないで。
オレの事ばっか考えて。
あの時のまま。
それが嬉しかった。
――ワッカから聞いた「2分41秒」。
ユウナ自身からは教えてもらえなかったけど。
オレを早く見つけるために潜った時間。
ブリッツの選手でもないのに、それだけ潜るのは至難の業。
指笛も吹き続けてた。
聴こえてた気がする。
ずっと、海の中で……ずっと。
ユウナがオレを呼んでる。
早く帰らなきゃって。
まだ寝れる時間があると。
愛しい恋人の待つベッドへ向かった。
今日から一緒の寝床。
ユウナが寝るのを確認するまで起きてた。
抱き締めながら。
本当は最初から一緒に寝たかったんだ。
ユウナを感じて、ユウナに触れて。
それだけ……オレはユウナに飢えてたからな。
部屋に戻ると、寝ているはずのユウナが……起きていた。
オレを見て驚いている。
瞳からは涙が一筋も二筋も。
「ユ、ユウナ!?」
慌てて駆け寄ってユウナの涙を拭おうとした時。
ユウナがオレに抱きついた。
「ごめん……水飲みに行ってた。 心配させちゃったな」
首を振るユウナ。
分かってる。
オレがいなくなったの、不安になっちゃったんだよな?
消えたかと思ったんだろ?
「さ、もう一回寝よう」
「……うん」
ユウナの涙を拭き取って、横にならせた。
その隣にオレが滑り込む。
カゼをひかないようにと肩まで毛布をかける。
「安心した?」
「うん……」
華奢なユウナのカラダを抱き寄せて胸の中に押し込んだ。
こうして好きな女を抱いてるのってこんなにほっとするなんて知らなかった。
幸せ、だよな。
ユウナはオレがいなくなったらって不安に思ってた。
けど。
怖いのはオレの方。
ユウナがいなくなったら。
……ユウナがいなくなってしまったら。
オレは……どうなるんだろう。
二年前も、今も。
きっと同じ結果。
泣いて。
狂って。
どうしようもなくなるんだろう。
――二年。
オレの空白の二年間。
その間にユウナが他の男のトコへ行くのは不思議じゃない。
むしろ……当たり前なんだ。
それでも、待っててくれた。
ずっと、ずっと。
指笛吹いてオレが帰るのを。
待っててくれた。
聞かされた時。
胸が締め付けられた。
どんな思いで吹き続けたんだろう。
どんな思いで待っててくれたんだろう。
だから。
今度は。
誰よりも。
「……何考えてるの?」
ビックリして胸の中のユウナを見た。
暗さで目が慣れて蒼と碧の瞳がオレを捉えてるのがよく見える。
「ユウナのコト考えてたッス」
「……ホント?」
「ホントッス、今までのコトとこれからのコト」
「今までのコトと……これからのコト…………?」
色違いの両目にうっすら悲しみを湛えてるように見え。
慌てて。
「ああ、別に消える予定はないッスからね! 絶対!!」
ユウナの頭のてっぺんに顎を乗せた。
「ユウナは何の心配もしないで、ココにいてくれればいいんスよ」
「ココに……?」
「そ、俺のココに」
安心したのか。
ユウナは小さく笑って、瞳を閉じて。
もうじき夜が明ける。
「なぁ、ユウナ。 もうちょっとしたら浜へ行こう。 朝焼け、一緒に見よう」
返事の代わりに、オレの胸に顔を摺り寄せてきた。
そう、ユウナは心配しなくていい。
平和な世の中。
世界を救うなんて、もうしなくていい。
オレがいなくなるなんて不安にならなくてもいい。
いなくなったオレを探すなんてしなくてもいい。
そしたら。
今度は。
誰よりも。
ユウナを幸せにしたい。
幸せに、する。
だからさ。
オレはもうずっとココにいるから。
ユウナもずっとココにいるんスよ?
「be there」 |
20051027 |