ビサイドにあまりにも似つかわしくない家が一軒。
オレが見てもそう思う。
ああ、ルカとかの方が断然似合うな。
「ユウナ、ただいまー!」
「あ、おかえりなさい」
今日のブリッツの練習を終えて。
浜辺から真っ直ぐ家まで帰ってきた。
もちろん全速力で。
もちろん、一分でも早く家でオレを待っててくれてる彼女に逢うため。
その家はオレ、だけじゃなく。
オレとユウナの。
二人の家。
ビサイドに帰ってから。
宿舎にずっと泊まってるワケにもいかず。
思い切って建てた家。
それはビサイドにはあまり似つかわしくない家。
オレが。
“ザナルカンド”で住んでた家そのものだった。
船の形をしたそれは、どうにもビサイドに馴染んではなかったけど。
オレが17年近く住んでた家を。
ユウナが10年近く住んでたビサイドに。
建てて二人で住みたかったんだ。
オレにとってもユウナにとっても。
第2の故郷と言っても過言じゃなかったから。
最初ビサイドの人も反対するかと思ったけど。
誰一人そういったコトを言う人はいなくて、むしろオレがビサイドに住んでくれなきゃ困るくらいに全員賛成してくれて。
改めて、ビサイドの人間の温かさを知ったんだ。
もちろんこの礼は。
ブリッツで返すまでなんだけど。
完成した家に初めてユウナを入れた時。
ビックリしてくれた。
家の中のものは全て二人用。
食器も家具も風呂もベッドも。
全てがユウナ前提に。
台所にいる彼女。
玄関と居間を繋ぐ階段がもどかしくて。
その手摺を飛び越え。
ユウナの元へと走り。
勢いよく抱き締めた。
オレを見上げる、ちっちゃい彼女は。
色違いの瞳を少し潤ませて微笑んでくれる。
いつだってそう。
オレはそんな彼女がたまらない。
だから。
ただいまのキスと。
“逢いたかった”の言葉だけは。
欠かした事がない。
そうすると彼女は。
オレの胸に擦り寄って。
笑顔で瞳を閉じる。
「キミは……なんだか最近嬉しそうだね」
気づいてたッスか?
隠し事は絶対できないな。
そう。
家を建てて。
二人で暮らすようになって。
二人だけの空間で。
彼女は。
甘えてくれるようになった。
なかなか甘えベタの彼女。
人前ではあまりしてくれない。
恥ずかしがるから。
いや、もっとしてくれていいんだ。
オレの方は甘えたいんだけどな、どこでも。
スピラの野郎共に見せつけたいもん。
だけど。
二人だけの空間で、オレだけの前で。
甘えてくれる。
オレだけ。
なら独り占めしようか。
オレだけの前なら。
甘えるユウナなんか誰にも見せない。
オレだけの特権だもんな。
ユウナはいつだって。
その瞳、声、笑顔という名の。
引き千切れない鎖で。
オレの心を捉えて。
離さない。
全然苦痛じゃない囚われ。
心地の良い縛られ。
もっともっと。
その甘い魅惑で。
オレを捉えて縛ってほしい。
だからオレも。
引き千切れない鎖で。
ユウナを捉えてやるんだ。
もっともっと。
甘い魅惑で。
「わたしを捉えて縛ってほしい」って言わせるくらい。
愛してやるんだ。
「愛のprisoner」 |
20061111 |