このスピラから『シン』が消滅した。
もう二度と現れることはない。
スピラは笑顔を取り戻し。
明るさを取り戻し。
それと引き換えに。
大きな代償が残った。
「ルールー!」
陽に当たれば当たるほど。
綺麗に輝く柑子色の髪。
高いところで結って。
また元気に襟足の三つ編みが揺れていた。
「リュック」
「えへへ、遊びに来ちゃった」
リュックの頬には可愛い笑窪。
人懐っこいその性格は旅の途中何度も励まされた。
今はシドさんの船でスピラのあちこちを回ってるらしい。
「ここはいいねぇ、のどかで」
「そうね、『シン』が消えてもここは何も変わらないわね。 私もワッカもユウナも育った村だからね、変わっちゃうのはちょっと寂しいかもしれないわね」
「…………そだね」
リュックの顔から徐々に笑みは消えて。
本題に入る。
リュックも私以上に気にしてる。
「ねぇ……ユウナは?」
『シン』を自らの手で倒した当事者。
戦いが終わったあと、私達と一緒にこのビサイドへ戻った。
今は寺院に身を寄せている。
「ユウナは……」
「あれ……? リュック?」
振り返ると。
村の外からユウナが来るところ。
ゆっくりと歩み寄って私達の傍まで来た。
笑顔で。
「ユウナ!」
「どうしたの? 今日はゆっくりしていってくれるんでしょ?」
「うん、遊びに来たんだ。 ユウナは? 何してるの?」
「ん、ちょっとね。 散歩かな」
従姉妹と笑顔で話す。
でもそれは。
『シン』を倒す前とは明らかに違っていて――。
直後寺院から呼ばれてユウナは返事をし、そちらへ向かった。
遅い足取りで。
「ユウナ……ちょっと痩せたんじゃない?」
リュックも気づいた。
私達よりリュックの方がより分かるだろう。
毎日見てる私達と違って。
痩せた、というより。
やつれた感じの方が強いだろう。
――あれから数日。
元気がないんじゃない。
ユウナは。
生きてない。
焦点の合わない二つの瞳。
感情を失った表情。
それは。
ただ息をしてるだけの。
蝋人形にすぎなかった。
スピラが平和になったその代償。
それは簡単にユウナを抜け殻にした代償。
笑う。
でも心の底からのものではなくて。
泣かない。
でも心の底では泣いてて。
――全てが無理。
分かりやすい娘だから。
見ていて痛々しかった。
誰もが知ってるその原因。
ほんの数ヶ月しかいなかった。
そのほんの数ヶ月で。
ユウナの心を捉え。
ユウナの心を離さず。
ユウナを最後まで……護り通した。
その人間が。
いない。
ひとつ明らかだった事は。
二人の絆はゆるぎないものだった事。
どれだけユウナの事を考えて。
どれだけユウナの事を愛してたか。
ユウナも。
どれだけ考えて。
どれだけ愛してたか。
誰も間に入る事なんかできなかった。
そして片割れがいなくなった。
そして。
もう片割れが生きる事を止め。
取り憑かれるように、村と浜を往復する。
それは今のユウナには唯一の希望なのかもしれない。
呼ぶ、事。
でもやはり。
胸の痛みは治まらない。
私達も。
――ユウナも。
誰もユウナを元に戻せない。
誰もユウナに笑顔を戻せない。
あんた以外は。
だから。
ユウナの危機に。
早く戻ってきなさい。
消えたのが「死」ではないのなら。
早く、今すぐ戻ってきなさい。
思うほど強い娘じゃないから。
このままじゃユウナは……死んでしまうから。
早く、早く戻って。
それが。
私の。
「姉」としての。
一番の、願い。
ユウナの傍にいてやって。
ユウナを支えてやって。
たったひとりのユウナをもっと……もっと愛してやって。
「傍に」 |
20051113 |