「あ、雪……」
ガガゼトに入るちょこっと前。
真っ白い空から真っ白い小さな塊がちらちらと降り出した。
掌に乗せればいとも簡単に形を失くす。
言われてみれば、息もすでに白くなっている。
ああ、どうりで寒いと思った。
隣のユウナを見る。
「寒くない?」
「ううん、大丈夫」
その否定は。
嫌なカンジがするものではない。
オレの目を見て。
笑ってくれている。
この数日。
ユウナが俯き始め。
笑いを失くし始めたのは。
オレのせいだった。
オレは前を行くルールーとリュックを見た。
な? あの二人は平気なんだ。
どんなに冗談を言い合っても。
どんなに笑い合っても。
平気なんだ。
緊張しないから。
ときめかないから。
ドキドキもしないから。
それがどうしたッスか。
相手がユウナだと。
緊張して。
ときめいて。
ドキドキもして。
マカラーニャを抜けて。
ナギに入って。
それまでずっと、ずっと。
オレはリュックの隣で歩いてた。
そりゃバカばっか言ってたけど。
でもほとんど会話の内容は。
“ユウナをどうしたら死なせないか”
オレのアタマはそれしかなかった。
ユウナを死なせたくない。
ユウナを守りたい。
そればっかだった。
ユウナが召喚士だからとか。
ユウナが究極召喚をしたら死ぬからとか。
スピラの運命を背負っててとか。
そういう理由で可哀相だからとか。
そんな気持ちからじゃない。
ユウナだから。
相手がユウナだから。
ずっとずっと。
オレの傍にいて欲しいから――。
でも。
それ以外に。
オレがユウナの隣にいれなかった理由。
知らなかったろ?
ユウナにバレないように普通にしてるのが苦労だった。
言い訳?
それでもいい。
それでもいいよ。
だって。
ユウナの隣にいれば。
オレはどうしようもなくなる。
どうにかしたい気分になる。
わからなかった。
何が原因でこうなったのかなんて。
で、わかったんだ。
オレは女の全てを手に入れたことがなかったんだ。
それは心も身体も。
恋をしたことがなかったワケじゃない。
でもその2つを。
同時に掴んだことはなかったんだ。
ブリッツ一筋だったオレは。
そういう気もなかった。
まだいらないと思ってた。
でもユウナは違った。
心も欲しい。
身体も欲しい。
ユウナの全てを。
オレは欲してた。
だから。
オレは。
ユウナの隣にいれば。
何をしでかすか。
自分でもわからなかったんだ。
自分を押さえ込むのに必死で。
ユウナの気持ちに。
ユウナがオレたちの仲を見て、どう思ってたかなんて。
気づいてやれてなかったんだ――。
だからさ。
全てを受け入れてくれたユウナ。
吹っ切れた。
本当にごめんな?
もう、オレ。
ずっと、ちゃんとユウナの隣にいる。
「寒くない?」
ユウナにもう一度訊く。
「うん、大丈夫だって」
その返事を聞くか聞かないかで。
ユウナの手を取った。
「ユウナ、すごく冷たいッス」
「え? あ」
冷え切ってるユウナの手。
はぁ、と息を吐きかけて。
擦ってやった。
「温かい?」
「ふふ、温かいよ」
それでもユウナの手はなかなか温まらなくて。
「ユウナ、手出してみ」
自分の右手のグローブを外し。
いつもしてない左手のグローブを腰のバックから出し。
出されたユウナの手に、それらを填めた。
「や……ティーダ! ダメだよ、キミの手が冷たくなっちゃ」
「いいよ」
「でも!」
「いいって。 “オレの手”が寒さで荒れたりかじかんだりしたら困るッス」
ユウナはじっとオレを見て。
意味がわかると、次第に頬を赤く染め。
“ありがとう”とオレに聴こえる声で。
笑った。
そう。
その笑顔。
その笑顔を見ると。
オレは、本当にどうしようもなくなって。
どうにかしたい気分になって。
情けなさすぎて、ユウナには絶対に言わないけど。
心臓がバクバク言って。
心拍数も上がって。
熱も上がって。
ユウナは身体に悪い。
それは毒。
でも、すごく幸せで、すごく嬉しくて、すごく居心地のいい、いつも感じていたい、そんな毒。
ユウナって。
そんなカンジなんだ。
そんな毒なら。
オレはいつでも。
いつまでも侵されていたいッスよ。
「poison ―after love ya―」 |
20061207 |