マカラーニャの森はとても美しかった。
キラキラしててここだけ時間が止まったよう。
『シン』とは無縁な森。
スピラを救うという目的。
それすら忘れてしまいそうになる。
グアドサラムを出て、雷平原を超え。
今日はここで休むこととなった。
ジェクトさんのスフィアを見つけた泉。
その淵に腰を下ろして。
泉の真ん中にそびえる大きな木を仰いでいた。
「何してるッスか?」
振り向けばキミがわたしに向かって歩いてきてて。
隣にあぐらをかいて座った。
ちょっと元気がなさそうな気がするのは。
気のせい、かな……。
「ココはキレイッスね」
「そうだね」
キミは空を見上げ。
その美しい世界に酔っていた。
幻光虫がわたしたちのまわりを飛び交い。
天高く舞い上がり、空に溶ける。
「ねぇ、お願いがあるんだ」
「ん?」
「ザナルカンド……ザナルカンドの話聴かせて?」
「え?」
ビックリしてわたしを見た。
金髪の髪がゆらゆら揺れている。
「わたし、結婚したらもう聴けないかもしれないから……もう、きっと最後だから……」
わたしは俯いた。
結婚。
それはきっとスピラ中が喜んでくれるはずの儀式。
心底望んでる訳じゃない。
わたしだって。
本当は。
――暫くしてから。
キミは話し出した。
「……ザナルカンドはさ建物がごちゃごちゃしてて人が沢山いて……」
キミはいつもザナルカンドの話をすると瞳が輝いていた。
他のどんな話よりも。
子供みたいにはしゃいで。
その瞳はどこか懐かしそうに遠くを見てる。
わたしに聴かせてくれてるはずなのに、わたしの事はちっとも目に入ってないみたいに。
それは、今も。
――帰りたい。 元の生活に戻りたい。
聴こえる。
そう思ってるのが手に取るように分かってた。
「…………ザナルカンドは遊ぶ所いっぱいあるんだよね?
スピラには……何もないから」
「ん?」
「ごめんね?」
「なんでユウナが謝るんスか? オレ、結構気に入ってきたッスよ?
確かに最初は何もなくて……機械とか」
「うん……でも」
「でも?」
「ザナルカンドでの……キミの彼女が羨ましいな」
「え?」
「羨ましい」
きっとキミにとってはスピラは退屈な世界なんだろう。
シーモア老師の館で見た1000年前のザナルカンド。
とてもキラキラしてて眩しかった。
溢れる光。
溢れる水。
全てスピラにないものばかり。
何もかもが新鮮だった。
……でもわたしには不似合いな所。
それは分かった。
きっと……進みすぎた文明についていけないだろうって。
本当に行けたとしても。
わたしは、文明にも……彼にもついていけないのだろうって。
キミはいつ見ても素敵だった。
飽きなくて、いろいろな発見が出来て。
それだけでわたしは幸せだった。
向こうに彼女は。
きっといるね。
女の子がほっとかないもの。
きっと彼女がいれば飽きることなく街を徘徊できて。
カワイイものを買ってあげて。
キレイな服を着せてあげて。
幸せに暮らしてたに違いない。
キミも彼女をとても大事にするタイプだと思うから。
キミが目を細めながら語ってくれるザナルカンド。
彼女の事も思ってるかもしれない。
ごめんなさい、彼女さん。
だからわたしは。
早く……早く究極召喚を手に入れて。
『シン』を倒して。
キミを元の世界に帰してあげたい。
そう、わたしが『シン』を倒して。
キミがザナルカンドに帰っても。
ザナルカンドに帰らなくても。
わたしたちは……一緒にはなれない。
忘れていた。
わたしに恋愛なんかできないと。
してはいけないと。
今までずっと拒み続けてた世界。
人として……女としての幸せは掴めない。
『シン』を倒して、世界の人の笑顔が戻れば。
それがわたしの、幸せ。
そう考えると。
胸がいっぱいになって。
苦しくなって。
傍に……いれなくて。
「早く帰れるといいね。 わたし頑張るから」
立ち上がる。
彼に今の顔を見られたくない。
結婚。
それはきっとスピラ中が喜んでくれるはずの、儀式。
心底望んでる訳じゃない。
わたしだって。
本当は。
好きな人と、結婚したい。
ツラいよ。
痛いよ。
キミと別れるって。
もう決まってることだから。
ありがとう。
最後のザナルカンドの話。
ありがとう。
わたしと。
出逢ってくれて。
封印しよう。
なかったことにしよう。
わたしの気持ち。
だから。
さよなら。
「"彼女"」 |
20060429 |