仄かに灯る部屋の中。
橙の燈篭に照らされて浮かび上がる白い肌。
オレと壁とに挟まれ、守られるように。
腕の中で。
オレの愛した女が眠っている。
日頃の疲れもあり。
オレとの3回の情事の所為もあって。
うっすら口を開いてぐっすりと眠りの世界に誘われている。
規則正しい呼吸。
長い睫毛は上に向く気配はない。
オレは起こさないように、ユウナの髪を指先で持て余していた。
何も纏う事のない肌と肌。
互いの体温が心地良いものになっていた。
柔らかい髪。
透き通るような白い肌。
「ごめんな……」
オレにユウナに何か残してやるものは何も無かった。
明日の決戦。
今晩が最後だと。
食事が終わってからユウナを部屋に呼び出して。
ユウナの顔、ユウナの声、ユウナの身体。
今夜の全てをオレの、オレだけのものにしたくて。
オレの全てをユウナに見て欲しくて。
抱いた。
『今夜は、オレとずっといてくれ……』
部屋をノックする彼女を引き入れて壁に押し付けた。
数分後には快楽に溺れる女の顔になったけど。
少女のようにはにかむ笑顔で応える彼女。
その笑顔を守りたい。
ずっと永遠に終わることの無い『ナギ節』。
ユウナが笑顔でいてくれればオレはそれだけで何もいらない。
オレ、ユウナの笑顔、好きなんだ。
ほら、ずっと旅してる間絶えなかったろ?
でも。
それができないクセにムリしてる笑顔だって、分かってたんだ。
だから本当の笑顔を。
ユウナの身体が少し震える。
肩まで上掛けをかけてやって、またオレの腕はユウナの細い腰に落ち着く。
きっと……スピラの人間は笑顔を取り戻してくれる。
ユウナは?
ユウナも本当の笑顔を取り戻してくれるか?
危険のない世界で穏やかな時間を過ごしてくれるか?
……それとも……オレがいなくなったら泣いてくれる?
オレがいなくなったら悲しんでくれるか?
もしそうだったら、オレ嬉しいよ。
でも……きっとその時のオレには何もできない。
抱き締めてやる事すらしてやれない。
ごめんな、約束いっぱいしたのに。
『全部が終わったら……一緒に幻光河行こうね』
オレがずっと前に言った事。
覚えててくれたんだな。
でもユウナがもう一度約束したそれに。
オレは笑ってやる事しかできなかった。
オレから言い出した事なのに、“行こうな”の一言が言ってやれずに。
だから……。
ユウナは。
幸せになれよ。
幸せにならなきゃいけないんだ。
その隣は、オレでなくても。
頭と腰に回した腕に力を入れ、ユウナを引き寄せる。
そしてユウナの髪に口付けた。
きっとユウナにはいいヤツが現れる。
ずっと傍にいてくれるヤツが。
こんな大事な事黙ってる事ができない、嘘のつかないヤツが。
そして一緒になって幸せな家庭を築いて。
一生を終える。
――そんなの嫌に決まってる。
我慢できないに決まってる。
でもオレにはその権利がない。
ユウナの隣で笑ってる資格が無い。
出逢うのが遅すぎたんだ。
「ユウナ」に気づくのが遅すぎたんだ。
オヤジがオレをスピラに飛ばさなきゃオレ達は出逢ってなかったし。
ユウナもオヤジさんと同じ道を辿ってたかもしれない。
でも出逢って。
ユウナの運命変えられただけでも。
それだけでもオレは良かったと思ってる。
オレは本当はここにいないはずの人間だから。
消えても誰の記憶にも留まらない。
だけど、ユウナはスピラにいなきゃいけない人間だから。
スピラには必要な人間だから。
ユウナだけは死なせたくなかった。
分かってくれよ?
オレはどうなってもいい。
ユウナを犠牲にするわけにはいかなかったんだ。
好きな女がいなくなるのは……きっとオレは死ぬまで後悔しながら生き続けるだろうから。
時々でいい。
思い出してくれるのは。
……忘れてくれてもいい。
その方がいいかもしれない。
たった数ヶ月しかオレ達の人生は交わってないんだから。
忘れて、くれてもいい。
オレは……オレだけは。
絶対忘れないから。
「……ィーダぁ……」
ユウナがオレに擦り寄りながら寝言を言う。
服で隠れる部分だけに散りばめられた、赤い刻印。
オレから吐き出されたモノが染み渡ってる身体。
今。 たった今。
こうしてオレはユウナの身体に触れていられてるのに。
ユウナの体温を感じていられてるのに。
悔しくて、オレは。
抱き締めながらユウナに気づかれないよう、涙を流した。
いつか終わるだろう“夢”が。
明日終わる。
全て終わるんだ。
オレも、きっと終わる。
だから、だから幸せに――。
朝起きたら笑顔で「おはよう」って言ってやろう。
「今日は頑張ろうな」って言ってやろう。
「ユウナの笑顔、ずっと続くようにオレも頑張る」って。
そして何もかも終わったら「ザナルカンド、案内できなくてごめんな」って……。
泣かずに、謝ろう。
「いつか終わる夢」 |
20060117 |