――ごめんな?
『ザナルカンド……戻りたいなぁ』
何気に言った一言だったんだ。
別に何の意図もない。
いや……意図がないわけじゃない。
誰もがオレを知ってるザナルカンドに戻りたかったのは事実だった。
ザナルカンドに帰って。
エイブスで試合をしたい。
居心地のいい家でのんびりしたい。
願望。
そんなオレにユウナは。
『早くザナルカンド、行こうね。 早く『シン』を倒してキミがザナルカンドへ行けるように頑張るから』
オレはその言葉にすごく安心して。
『シン』を倒したら帰れるんだって確信して。
『ああ! 頑張ろうな、ユウナ。 早くザナルカンド行こうな。
んでもって『シン』倒そうな』
あいつの顔はすごく。
逸る気持ちだって抑えられそうなくらい。
穏やかで。
笑ってくれたんだ。
でもオレは。
気づかなかったんだ。
あいつの。
あいつの……。
一瞬だけの睫毛を伏せた。
ひどく悲しい顔。
そして。
ムリしてる笑い顔。
ユウナ。
……ごめんな?
飛空艇の窓から下界を望む。
見渡す限りの真っ青な波のない海。
陽の光が当たってキラキラしてる。
なぁ、ユウナ。
経験あるか?
こんな高い空からスピラを見るの。
すごくキレイだよ。
本当は『シン』なんかいないんじゃないかってくらい。
本当はもっと平和なんじゃないかってくらい。
一緒に見たい。
ムリなんかじゃないだろ?
二度とないワケじゃないだろ?
オレは窓にゴツンと額を当てた。
ユウナ。
ごめん。
オレ……無責任な事ばっか言ってた。
“早くザナルカンドへ行こう”
“早く『シン』倒そう”
後先ないって、自分の未来が分かってたのに。
どう思ってた?
どんな気持ちで聞いてた?
……オレの事、嫌いになった?
ずっとオレの願いに微笑んで聴いてくれた。
頑張ろうと応援してくれた。
悲しかったよな?
苦しかったよな?
辛かったよな?
胸、痛かったろ?
『究極召喚使ったら『シン』は倒せるよ、でも……その時、ユウナは………………ユウナは!』
ぎゅっと目を瞑った。
唇を噛み締めた。
窓ガラスに添えた手で拳をつくり。
震えた。
死ぬ。
リュックの言葉が忘れられない。
ワッカやルールーの悲痛な声が耳から離れない。
ザナルカンドへ行けば究極召喚が手に入る。
究極召喚を使ったら『シン』はいなくなる。
『シン』がいなくなったら同時にユウナは。
オレはもう一度窓ガラスに頭をぶつけた。
2回。
3回。
最後に拳で窓を殴りつけた。
知らなかったじゃ済まされない。
傷つけた。
追い詰めた。
悲しい、思いをさせた。
ユウナ……。
ごめん……。
オレ……遅かった。
ユウナへの気持ち、ずっと気づかなかった。
シーモアと結婚するって決めた時。
オレは……どうしようもない気持ちになったんだ。
好きとか嫌いとか感情は関係なく。
“スピラのため”って言うけど。
そんな問題じゃないんだ。
そういうんじゃない。
何て言っていいのか分からないけれど。
あいつにユウナを渡したくないって。
形だけの結婚でもあいつの妻になることが。
許せなかったんだ。
オレは…………もうユウナに気持ちが傾いてるんだって。
結婚を機に。
ようやく知ったんだ。
気がつけばオレの中は。
笑顔も声も指先も。
ユウナの全てがオレの全てを占めていて。
もうその頃には。
ザナルカンドへ帰りたい気持ちなんかどっかに行ってたんだ。
いや、戻ることはできないだろうって。
スピラにいて前に進むしかないって。
それに……。
ユウナの傍にいたいコトにも気づいたんだ。
死なせない。
『最期』なんて言わせない。
『シン』と倒すまで、倒した後も。
ずっとユウナの傍で。
ずっとユウナを護って。
ブリッジで見たユウナは。
ドレスを着ていて。
そして隣にはシーモアがいた。
ズキンと痛む胸。
――見たくなかった。
あんなヤツのためにそんなモン着て。
助けるよ。
奪いに行くよ。
そんなトコから。
あんなヤツのトコから。
『死』の螺旋から。
ユウナがオレの事嫌いでも。
オレはユウナの事が――。
ガードが集まる。
窓の向こうに聖獣が雄叫びを上げ飛空挺の周りを旋回する。
ベベルが近い証拠だと。
オレたちは甲板に出る。
強い風が頬を痛めた。
でも全然気にはならなかった。
……どけよ。
ジャマすんなよ。
お前の相手してるヒマなんかないんだよ。
ユウナ。
今から行くから。
それを睨み付けたオレは決意を固め。
静かに己の剣を引き抜いた。
「find and regret」 |
20060331 |